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ENEOS、競争力の強化に向けたデジタルツイン構築を本格始動
「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo」より、ENEOS 技術計画部の伊藤 裕之 氏
製油所業務の標準化と高度化に向けてデータ統合基盤を整備する
製油所やプラントの安全・安定な操業には、「操業トラブルの削減が不可欠だ」(伊藤氏)。そのためには、設備の老朽化やデータシステムの複雑化といった課題への徹底した施策が求められる。ENEOSが目指す製油所業務の標準化と高度化に向けては、「必要な情報を1カ所に集約し業務をシームレスに支援できることを前提にデジタルツイン基盤を構築する」と伊藤氏は説明する。
ENEOSが描くデジタルツインとは、「エンジニア1人ひとりが、それぞれの作業環境から、場所や時間を問わず、必要なコストや現場のリアルタイム情報、稼働状況、運転状況、機器リスト、メンテナンス状況などを示す必要なデータにアクセスできる環境」(伊藤氏)である。基盤として「Cognite Data Fusion(CDF)」(ノルウェーのCognite製)を採用した。
これまでENEOSでは、「個別システムにアクセスし、人手でデータを関連づけており、データ共有も困難な状況だった」(伊藤氏)。デジタルツイン基盤の構築により、「ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)システムや技術データを管理する既存システムを変更することなく、手によるデータの関連づけもなしに、必要な情報を集約しデータの関連性を表現することで、誰もが必要な情報を取り出して分析・可視化できるようにする」(同)
データを一元管理できれば、AI技術や他のアプリケーションとの連携が図れ、高度なスマート保全や設備状況の把握が容易になる(図2)。具体的には、設備関連情報や運転トレンドのダッシュボードや「Charts」での表示や、「データエクスプローラ」での検索、「Industrial Canvas」での可視化などを期待する。
デジタルツイン基盤は2024年度から全製油所に展開する計画だ。ただ「1つの基盤への統合には課題もある」と伊藤氏は明かす。「ENEOSは合併を経てできたグループであり、各所が使用しているシステムに違いがある」(同)ことだ。
結果、エンジニアは「この製油所では、こうした特性があるから、このデータを確認する」「この製油所では、こういうルールで登録されているから、それに従って検索する」などの個別対応に追われている。その解消を求める現場の声は大きく、業務の標準化は大きな目標である。伊藤氏はデジタルツイン基盤への期待を、次のように話す。
「さらなる業務効率化や信頼性の向上に貢献し、エンジニアリング業務の支援領域を拡大していく。全てのエンジニアが利用できるシステムとして、広大なデータベースを基盤として活用する。高度な設備管理や技術、プロセスの検討にも、このデータベースを最大限に活用したい」
デジタルツイン基盤として各種データ連携機能の強化を期待
デジタルツイン基盤としてのCDFに期待するのは、「継続的な機能向上、コンテキスト精度の向上、リーズナブルな価格での提供」(伊藤氏)である。「生成AIやロボティクスとの連携といった機能拡張も期待したい」(同)ともいう。
加えて、「3D(3次元)モデルとの高度な連携、アセット(資産)選定や属性情報の連携にも期待する」(伊藤氏)。特に電源メーターや水準モデルの領域では、「3Dモデル化するだけでは見た目の情報しか得られない。そこに『ここからここは配管』『ここから、ここまでは国内で設備管理していた部分』といった情報を結びつけられば、バーチャル作業と現実の設備管理が確実に連携し、3Dモデルを運用や管理に役立てられる」(同)と期待する。
データ統合ではほかにも、独SAPのERPシステムからデータを取り出す「SAPエキストラクター」の改良によるドキュメント抽出の効率化や、CAD(コンピューターによる設計)のファイル形式であるDWGからPDFへの自動変換によるマスター図面の管理なども注視する。
伊藤氏は、「メンテナンスや改造により現場は変化する。そのためマスターデータはCADソフトウェアで管理したい。だが関連する図面の階層管理が複雑なため、維持管理が課題になっているためだ」と説明する。
AIモデルの学習データを作成するアノテーションでの操作性向上も重要だ。「単に『はい/いいえ』を選択するだけでなく、機械学習による提案が間違っている場合は手動で修正しなければならないだけに、柔軟な操作方法が必要だ」と指摘する。
伊藤氏は「我々エンジニアリングの魂として、トラブルの未然防止を実現し、製造現場の信頼性を高めながら、安全で安定的なエネルギー供給を維持していきたい。そのためにCDFを活用し、この目標を達成しようとしている」と力を込める。