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ENEOS、競争力の強化に向けたデジタルツイン構築を本格始動

「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo」より、ENEOS 技術計画部の伊藤 裕之 氏

森 英信(アンジー)
2024年11月4日

ENEOSは2024年9月12日、これまで分散していたデータを統合し製油所におけるエンジニアリング業務のスマート化に向けたデジタルツインの構築に着手すると発表した。同社 技術計画部 次世代技術グループマネージャー 伊藤 裕之 氏が「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo」(主催:ノルウェーCogniteの日本法人、2024年9月12日)に登壇し、同社における製油所のデジタルツインの位置付けなどについて説明した。

 「製油所やプラントの安全・安定操業には、操業トラブルの削減が不可欠だ。設備の老朽化やデータシステムの複雑化といった問題がある中、設備の信頼性を高めるには、独自のデジタルツイン基盤が必要だ」――。ENEOS 技術計画部 次世代技術グループマネージャーの伊藤 裕之 氏は、同社がデジタルツインを構築する狙いをこう説明する(写真1)。

写真1:ENEOS 技術計画部 次世代技術グループマネージャーの伊藤 裕之 氏

製油所のデジタル化を2040年までに3領域3段階で進める

 ENEOSグループは、「エネルギー・素材の安定供給」と「カーボンニュートラル社会の実現」を目指し、そのためのデジタル戦略として3つの柱を掲げる。(1)石油事業を変革する「ENEOS-DX Core」、(2)新規事業を推進する「ENEOS-DX Next」、(3)エネルギー形態の移行を加速する「カーボンニュートラルに向けたDX」だ。その中で伊藤 氏は、製油所やプラントへのデジタル技術導入を担当する。

 製油所のデジタル化は、(1)集中監視・運転制御のための「ボード」、(2)現場点検・作業のための「フィールド」、(3)各種設備や装置のメンテナンスのための「設備管理」の3領域に分けて進めている。各領域に対し、さまざまな技術を2025年、2030年、2040年の3段階で導入するロードマップを描いている(図1)。

図1:ENEOSが描く製油所のデジタル技術導入に向けたロードマップ

 ボード領域では、AI(人工知能)技術による自動運転を進める。従来、プラント操業では運転員が24時間体制で監視と操作に当たってきたが、熟練者の不足が課題になっている。そこで、「熟練運転員を上回る安定化や収益の最大化を目指し、高度なプラント運転技術を、AI技術開発のPreferred Networksと共同で開発している」(伊藤氏)

 プラントの自動運転に向けて開発中のAI制御モデルでは、制御対象の動的特性に基づく線形計画法ではなく、人の脳の神経回路を模したニューラルネットワークを利用した非線形最適化法を採用する。伊藤氏は、「原料の性状や通油量の大きな変化に対応し、制御目標が常に経済性の最大点になるよう調整できる」と、そのメリットを説明する。

 フィールド領域では、装置の巡回点検が人の判断に依存しており、特に運転員の熟練度が重要な課題になっている。そこにドローンやロボットの技術を適用する。例えば、「自動航行システムを使い、あらかじめ設定したルートを巡回点検し、AI技術による画像解析によって、目視点検を超える観察を可能にする」(伊藤氏)ことを目指す。

 なお、国内ではプラントなど厳しい環境下で動作する電子機器に対し「防爆認証」という定めがある。同認証を満たすロボットを現在、三菱重工業と共同で開発している。「オンサイトで稼働させ、長期の連続実証試験を続けている段階にある」(伊藤氏)という。

 ドローンは既に全製油所の非防爆エリアで活用している。特に高所や狭小空間の点検や、災害時を想定した状況確認を主な用途に「目視内ながら自動巡航も実証中」(伊藤氏)だ。

 設備管理領域では、現場作業員の支援策として、モバイル端末とデジタル点検システムを導入している。伊藤氏は「防爆型のデバイスを採用し、巡回点検や突発的な対応、リアルタイムでの映像共有などが可能になる」とする。