• UseCase
  • 製造

ヤマハ発動機、ロボットを“仲間”や“相棒”にし人による作業の価値を高める

執行役員 ソリューション事業本部長 江頭 綾子 氏

阿部 欽一
2025年4月14日

オートバイや船舶用エンジンを製造するヤマハ発動機が、事業の第3の柱に位置付けるのが、電子部品の表面実装機や無人ヘリコプターなど産業用のロボティクス事業である。同社執行役員 ソリューション事業本部長の江頭 綾子 氏が「Manufacturing Japan Summit 2025」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン、2025年2月)に登壇し、自社工場におけるロボットを使った自動化例を交えながら、同社のロボティクス事業について説明した。

 「製造現場では単に労働力が不足しているだけでなく、高度な機能を有する人材が不足し、高品質を保ちながら業務を継続することが困難になると懸念される」−−。ヤマハ発動機 執行役員 ソリューション事業本部長の江頭 綾子 氏は、こう指摘する。

写真1:ヤマハ発動機 執行役員 ソリューション事業本部長の江頭 綾子 氏

ロボットをオートバイや船舶用エンジンに続く第3の柱に

 ヤマハ発動機は、オートバイや船舶用エンジンなどを世界30カ国で生産・販売している。2023年度の連結売上高は約2兆4000億円で、その9割以上が海外事業によるものだ。

 その同社が第3の事業の柱に位置付けるのがロボティクス事業である。約50年前に自社工場の自動化のために産業用ロボットの研究を開始。現在はスマート工場の企画や技術開発、各種デバイスやシステムの開発までを手掛けている。

 江頭氏は「社会課題の解決や新たな産業創出への期待から、ロボットに関連するニュースを聞く機会は10年前に比べれば大きく増えてきた」と話す。事実、日本の労働力不足は深刻な社会課題である。日本人の出生数は2024年に初めて70万人を割り込み、日本の総人口は2070年に8700万人にまで減少する(国立社会保障人口問題研究所調べ)。その解決策として期待されるのがロボットだ。

 経済産業省は2015年に「ロボット新戦略」を打ち出し、産業用ロボットの導入・活用を後押ししてきた。国際ロボット連盟によれば、世界の産業用ロボットの稼働台数は2023年に前年比10%増の428万台超だった。

 ヤマハ発動機が考えるロボットについて江頭氏は「ロボットに任せられるものは任せ、人が持つ力を最大化するという“人間拡張型”での適用を想定している。完全な自動化に至らずとも、作業の遠隔化や負荷軽減によりロボットを“同僚”あるいは“相棒”に見立て、1人の技能者がこなせる業務を最大化していくアプローチである」と説明する。

 人間拡張型ロボットの導入により「人手不足の解消のほか、人材の活性化、生産性の向上、品質の安定、重労働や危険作業を代替する労働環境改善、多様な人材活用などが期待できる」(江頭氏)とみる。

テクノロジーもデータも3現主義で利用し無価値な作業を削減する

 ヤマハ発動機は2018年時点で社内にDX(デジタルトランスフォーメーション)推進組織を設け、製造DXに取り組み始めている。だが「推進組織主導でのデジタル化やデータ分析の取り組みは、なかなかうまく機能しなかった。そこで改めて本当の現場の困りごとは何かから検証し直した」(江頭氏)という。

 検証結果から導き出したのは「現場・現実・現物の三現主義に基づき、現実を定量的に細かく、かつ早く、正確に把握するためにテクノロジーを活用する」というアプローチである。具体的には次のような活動に取り組んだ。

(1)現実とのギャップの解消 :ヤマハ発動機独自の改善手法である「理論値生産活動」を元に“ありたい姿”を設定し、その実現に向けて活動する
(2)内製・手の内化 :内製化により、デジタル技術を安く・早く適用し、現場の仮説検証時間を短くする
(3)現場サイエンティストの育成 :ノウハウ化した技術を教育体験に落とし込み、現場経験が豊かな人材に教えることで自立した横展開と成熟を図る

 これらの活動について江頭氏は「現場経験に合わせてデータを活用し、裏付けられた仮説を関係者が合意・納得したうえで、実現できなかった価値を創造することに舵を切ったということだ」と説明する。データ分析も「特定の専門家やアナリストだけに限らず、誰もが利用できるようにすることで、現場の意思や考えをデータに基づいて反映させ、成果を自ら実感して業務が楽しくなるような現場にしたい」(同)とする。