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メガネのJINS、AIチャットサービスで店舗でのCXを高める

ジンズHD AI推進室 常務執行役員の松田 真一郎 氏とジンズ AI推進室 プロダクトマネジャーの黒尾 玲奈 氏

森 英信(アンジー)
2025年8月13日

【インタビュー】AI技術は経営の話題なので社長直轄で進める(聞き手は佐久間 太郎 = DIGITAL X 編集部、文中敬称略)

――AI推進室を立ち上げた経緯は。

松田 :創業者でCEOの田中 仁には「AI技術が時代を変える。その波の先頭を走っていないと時代に乗り遅れてしまう」という強い想いがある。経営会議において田中は「AI活用は会社の生存に関わる大きなテーマだ。専門の部署をしっかり立ち上げた方が良い」と提案した。

ジンズHD AI推進室 常務執行役員の松田 真一郎 氏とジンズ AI推進室 プロダクトマネジャーの黒尾 玲奈 氏

 ただAIは、デジタルだけではなく経営の話なので、社内にあったデジタル本部ではなく、社長直轄部署として立ち上げることを決めた。社内公募による3人でスタートし、現在はAIエンジニアやデータサイエンティストを加えた6人体制で活動している。

 正直に言えば、基幹システムのモダナイゼーションを進めている最中のため「さらにAI?」という迷いはあった。それでも会社のビジョンとして「新しい当たり前を自ら作り上げていく」とうたっており「忙しいから先送りすることは “JINSらしくない”」というのが経営陣全員の一致した意見だった。

黒尾 :メガネの似合い度合いを判定する「JINS BRAIN」の開発を担当した経験から、似合う/似合わないだけでは解決し切れない顧客の悩みが多数あると感じていた。AI推進室の公募に応じたのは、JINS BRAINから一歩進んだCX(顧客体験)を創出したいという想いからだ。

――JINS AIを3カ月で店舗導入を実現できたのはなぜか。

松田 :2025年1月に企画し、2月には開発、3月に社内での実証実験を実施し4月から実店舗に展開した。店舗のPoC(Proof of Cncept:実証実験)では完璧さよりもスピードを重視した。最初からルールをガチガチにし、ビジネス的な価値を検証できなくなることを避けたかった。まずはCXをどう作るかに集中したことが奏功した。

 JINS AIのペルソナ設定は、まさに会社のブランドに直結する課題だ。最終決定にはCEO自らが参加した。トップの意思決定の速さとリーダーシップもスピード感につながった一因だ。

 AI推進室の立ち上げメンバーは、元店舗スタッフなどIT経験がない社員も多い。技術的な目利きは私が担当したが、実際の開発はAWSのワークショップに参加したり開発パートナーとチームを組んだりして進めた。

――JINS AIの手応えは。

黒尾 :現在は、インバウンド顧客の来店やAI技術への関心が高いと思われる都心部の10店舗で実証を続けている。正確な購買率のデータはないが、JINS AIを利用した顧客の約17%が、具体的な商品を決めるアクション(購買意向)に至るなど手応えを感じている。

 店舗スタッフもポジティブな反応を見せており、特にインバウンド顧客への多言語対応で役立っていると聞く。自ら対応できない言語の顧客とのコミュニケーションの助けになるようだ。

――今後は、どのように進化させていくか。

松田 : PoCの第1フェーズは2025年6月で終わるが、第2フェーズでは5カ月ほどの期間を設けている。そこでは、レンズの度数や球型、フレームサイズなどの購買履歴データもJINS AIにインプットし、顧客1人ひとりに合ったメガネを提案できるようにしたい。

 一方、JINSのシステムは、店舗用とEC用とが別々に作られており、データ連携が難しく、購買データをAIにリアルタイムに反映できないという課題がある。JINS BRAINなどのサービスもスタンドアローンで存在している。点在するCXをつなぐためのエージェントAIの実装も構想している。

黒尾 :JINS AIを利用した顧客からは「提案されたメガネが店内の、どこにあるのかが分からない」という声が多く聞かれた。商品の展示コーナー名は伝えられるが、店内マップ上で具体的に、どこにあるかまでは示せていない。2023年2月にサービス終了した「棚NAVI」では個別開発していた機能でもあるので、次フェーズではJINS AIでも実験的に取り組みたい。

デジタル変革(DX)への取り組み内容
企業/組織名ジンズ(JINS)
業種流通・小売り
地域東京都千代田区(本社)
課題メガネ選びでは店頭への来店が重視されているが「似合うものが分からない」「どのフレームを選べばよいか分からない」といった悩みを抱える顧客が多い
解決の仕組みAIチャットサービスにより、顧客の好みを聞きだし、適切なメガネの選択を支援する
推進母体/体制JINS、AWS(Amazon Web Services)
活用しているデータメガネの商品マスター、過去の購買履歴からなるフレームやレンズ形・度数情報、FAQなど
採用している製品/サービス/技術生成AIサービス「Amazon Bedrock」(米AWS製)、ストレージサービス「Amazon S3」(同)、データ検索サービス「Amazon OpenSearch Service」(同)
稼働時期2025年4月(一部店舗での提供開始時期)