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トクヤマ、マザープラントの夜間操業や予兆保全に向け産業用データ基盤を構築
「Cognite Atlas AI Summit in Tokyo 2025」より、徳山製造所 エンジニアリングセンターの森 圭史 氏
運転・保全へのAIエージェント活用には高品質なデータが不可欠
運転・保全系でのAI技術の活用について森氏は「製造業におけるAI技術の活用分野は大きく、予測系:検知と実行系:効率化に分けられる」とみる。
ただ「ChatGPT」(米OpenAI製)や「Microsoft Copilot」(米Microsoft製)などの汎用モデルを適用しても「インターネット上の情報から回答を導き出すため、精度の低い回答しか得られず、判断の決め手にはならない」(森氏)と指摘する。「当社独自のデータを参照するAIエージェントの仕組みを実現しなければ、プラントの品質基準では使えない」(同)とする。
加えて森氏は「GIGO(Garbage In, Garbage Out:ゴミからはゴミしか生まれない)を防ぐために最も大事になるのが、スタート地点である入力データが高品質であることだ」と強調する。
そのうえで、経営や現場が決断できるだけの価値を実現するためには「データの種類や意味、使い方など、さまざまな観点にも気を配る必要がある」(森氏)と考える。「解像度を上げるためにも、データソースの充実を図り、価値の幅を広げることが重要」(同)だからだ。2026年以降は「データソースを順次追加しながら、価値の幅と精度を上げていく活動を予定している」(同)という。
一方、現場でのデータ活用を進めるためには「特定のタスクや設備に応じたAIエージェントのモデルを作るアプローチが必要だ」と森氏は指摘する。実際、点検業務のトラブルシューティング用のAIエージェントとして「たぬ助」を独自に作成した。巡回担当者が不具合箇所の写真とコメントをInFieldにアップロードすると、たぬ助がそれを読み取り、CDFが持つ過去履歴を元に見解を提示する。
また報告のうち、特に緊急度が高いコメントと判断した情報は、Industrial Canvasを経由して管理者に自動で共有する。管理者は「次の対応策をAI技術と共に検討するという流れになっていく」と森氏は説明する。
現在は「回答が本当に使える品質かどうかを検証している段階」(同)だが今後は「朝のミーティングにおける議題整理や、工事安全指示書の作成などに活用していきたい」と森氏は意気込む。
現場の課題を掘り起こしユースケースを作り継続して運用する
CDF導入による経済効果として森氏は「ベースとなる業務は少なくとも年間2億円の効率化が達成できる」と見込む。さらに「突発停止ゼロで年間11.3億円の機会損失回避、夜間操業無人化(省力化)で2370万円のコスト削減が期待されている」(同)という。
トクヤマDXの推進に向けた2030年頃までのマイルストーンも策定した(図3)。森氏は「CDFの導入はゴールではない。今後はデータを活用するために何ができるのか、現場と泥くさく課題を掘り起こしてユースケースを作り、継続的に運用していく」とする。
AI技術の活用においては「AIエージェントの作成にはスペシャリストが必要だ。社内で人材を確保・育成していくこともマイルストーンの達成には欠かせない」と力を込める。
