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ドイツ鉄道、欧州最大級の鉄道網の資産管理にBIMとデジタルツインを活用へ

米Autodeskのイベントより、InfraGO BIMスペシャリストのゲイリー・フィリップス氏とDB Systelシニアコンサルタントのクリスチャン・マンテ氏

佐久間 太郎(DIGITAL X 編集部)
2025年12月11日

デジタルツインを構築しインフラの動的な運用・保守を可能に

 一方、運用・保守段階でのBIM活用について、グループ全体のデジタル化を推進する独DB Systel(ズュステル)のシニアコンサルタントであるクリスチャン・マンテ(Christian Manthe)氏は「通常の運用では、レポートやファイルの情報は保存された瞬間に古くなる。ドイツ鉄道に必要なのは、日々変化する“動的”な情報を利用するための基盤だ」と話す(写真2)。

写真2:独DB Systel シニアコンサルタントのクリスチャン・マンテ(Christian Manthe)氏

 動的な情報を可視化するために、デジタルツイン基盤「Tandem」(米Autodesk製)の運用を試験的に始めている。Navisworksで利用する設計・施工段階のBIMデータをTandemに引き継ぎ、種々のIoT(Internet of Thigs:モノのインターネット)センサー情報と紐付ける。

 例えば、駅の照明用柱の管理では、BIMデータと資産台帳をリンクさせた。Tandemのダッシュボード上で情報が欠落している照明用柱を特定し、そのデータをExcel形式で書き出す。マンテ氏は「使い慣れたExcel上で欠けているデータを修正し、それをシステムに戻すことでデジタルツインの鮮度を保てるようにした」と説明する。

 デジタルツインによる予知保全と状態監視の高度化により「計画外のダウンタイム(停止時間)を20〜40%削減できる」とマンテ氏は試算する。遠隔からの状況把握も可能になるため「物理的な現場訪問の時間や回数といった検査工数は30〜50%削減できる。技術者の移動自体も10〜30%の削減効果を期待している」(同)という。

 そのためには「技術者が複雑なデータ構造やシステムの操作を意識することなく、問いに対する答えを即座に得られる世界が必要になる」とマンテ氏はみる。具体的には「情報同士の関係性を点(ノード)とエッジ(線)で構造化する『グラフベース』のアプローチへと移行する」(同)という。

 自然言語処理とAI(人工知能)技術を組み合わせた対話型のインフラ管理を実現するのが目標だ。ドイツ鉄道が使用するAIアシスタントの「BAHNGPT」をインタフェースに「エレベーターが10基以上ある駅を全て表示して」と話しかけたり「空いている設備と、車両修理に必要な資材を備えた整備施設はどこか」を問うたりできるようにする。

 質問に対しシステムは、BIMの空間情報やERP(Enterprise Resource Planning:経営資源計画)システム「SAP」(独SAP製)の在庫情報、センサーの稼働状況などを横断的に検索し、最適な答えを提示する。「技術と情報要件は高度に変化している。それだけに、システム構築に利用者を巻き込み、彼らのアクションをもって初めて可視化が完成する」とマンテ氏は力を込める。

将来発生するかもしれないユースケースまでを考慮する

 そのマンテ氏は、2035年のデジタル未来像として「技術(Technology)、仕事(Work)、情報(Information)、メガチェンジ(Megachange)の4つの主要領域で根本的な変化が起きる」と予測する(図2)。

図2:ドイツ鉄道が考える2035年のデジタル環境の図

 特に情報の領域では「増え続けるデータの洪水からAI技術が価値ある情報の発見を手助けする一方で、誤情報の生成や認識といったリスクに対処する必要性も高まる」(マンテ氏)とする。

 加えて将来のAI活用では「どのデータが真に有用かを見極める規律がなければ、インフラのライフサイクルは支えられない」とマンテ氏は考える。フィリップス氏も「データが多過ぎることは、データが全くないことと同じくらい悪い場合がある」と警戒する。

 また仕事の領域では「テクノロジーに対する直感的で自然なアプローチこそが、労働環境の激変を乗り越える鍵になる」(マンテ氏)とみる。対話型の運用管理インフラの構築はその一環であり、グラフベースのデータ構造が、その基盤になる。

 マンテ氏は「問題は常にマインドセットにある。人々は特定のユースケースに限定したデータワークフローを考えがちだが、将来発生するかもしれない他のユースケースを考慮していない。メガチェンジに向けては資産の1つひとつを管理する現場の足元からAI技術と対話するビジョンまで全ての働く人の意識を変えなければならない」と強調する。