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コーセー、生成AIの全社展開に向け内製ツールと学習環境の同時展開で現場の意識を変革
「AWS Retail & CPG Expo 2026」より、情報統括部の横山 春佳 氏と金田 実久 氏
コーセーが生成AI(人工知能)技術の全社活用に向けて、社内用チャットボットを内製開発するとともに、学習環境を同時に整備・投入することで現場への定着を図っている。情報統括部の横山 春佳 氏と金田 実久 氏が「AWS Retail & CPG Expo 2026」(主催:AWSジャパン、2026年4月20日)に登壇し、具体的な取り組み内容を説明した。
「過去、社内へのシステム展開では、利用者が感じる切実な声と情報システム部門の企画意図のギャップに、もどかしさを感じていた。生成AI(人工知能)技術の全社展開に向けては『今度こそ絶対に同じ思いをしたくない、同じ失敗を繰り返したくない』という危機感が真っ先に思い浮かんだ」--。化粧品メーカーであるコーセーの情報統括部DX推進課 生成AI推進リーダーの横山 春佳 氏は、こう振り返る(写真1)。
横山氏は利用部門とシステム部門のギャップからこれまでに「高機能なシステムを導入したが現場が使いこなせなかったり、使いやすいシステムを利用部門が個別導入しデータ連携の分断やマスターデータの乱立につながってしまったりを経験した」と明かす。
そうしたことを避けるために横山氏は2025年1月頃、生成AI技術の全社展開に向けた生成AI開発プロジェクトを発案する。「一部のリテラシーの高い社員の利用に留まるのではなく、全社員が使いやすく、使いこなせるように、全社の全体最適を考えた基盤を情報システム部門が責任を持って用意する必要がある」(横山氏)との思いからだ。
プロジェクトのメンバーは情報統括部内で公募した。結果、生成AI技術に知識や興味がある若手社員4人が手を挙げた。プロジェクトは横山氏を加えた5人で2025年5月頃に正式始動した。上層部も「挑戦に寛容な風土があり快く許可してくれた」(横山氏)という。
横山氏自身は2020年に新卒でコーセーに入社し、ブランドの新規施策を担当。入社当初からクラウド環境「AWS(Amazon Web Services)」に触れ始め「その魅力にどっぷりとはまった」(横山氏)。現在は生成AI推進リーダーとしてDX施策の企画・推進を担当する傍ら「システムの構築・デプロイというところを楽しんでいる」(同)という。プロジェクトに手を挙げた金田 実久 氏は2023年に新卒入社し、情報統括部の基盤開発課でセキュリティ基盤の企画運用を担当している。
プロジェクトの結果として現在は「コーセーホールディングスのほとんどの会社がプロジェクトで開発した同一ツールを使い、ナレッジを共有しながら効果を出し始めている。セキュリティレベルもしっかりと保てている」と横山氏は話す。
システム開発と並行した教育内容の検討が使いやすさにつながる
プロジェクト推進に当たって横山氏らは何を考え、どう取り組んだのか。最も重視した点を横山氏は「システムを導入することではなく、現場で使われ続けること、つまり“稼働”ではなく“活用”をゴールに捉えたことだ」と説明する。
その考えが、システム開発とガバナンスの整備、教育の3つの同時リリースにつながっている(図1)。大規模なシステム展開では、システム構築後にマニュアルや教育施策を作っていくのが一般的だが、今回は「プロジェクトのメンバーが関係部署と協力しながら一気通貫で担当した」(横山氏)。それが「導入後、現場の迷いをなくす大きな要因になった」(同)という。
提供したシステムは、内製開発した「コーセーAI」と、社内利用しているグループウェアと連携する生成AIツールの2つ。コーセーAIは米OpenAI製のLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)などを複数使い分けられるチャットボットである。文書の要約・生成や翻訳といった社内業務に利用できる。後者は社内のメールやカレンダーなどと連携する。
コーセーAIの開発と、その活用支援を切り離さなかった取り組みの表われの一例にボタンのデザインがある。「教育用動画の撮影や、活用を促すためのeラーニングのコンテンツを同時に検討するなかで、最も分かりやすいボタンのデザインや配置が考えられ実装できた」と横山氏は説明する。
その背景には、プロジェクトメンバーが「教育に特に注力した」(横山氏)ことがある。単にマニュアルを渡すのではなく、生成AI関連情報を集約したポータルサイトやeラーニングを展開するほか、ホールディングス全体で、どの会社でも、誰でも1対1で相談できる個別相談を導入当初から毎週実施している。
そこでは「基本的な操作から、複雑なプロンプトの共同作成、生成AIをどのように業務プロセスに組み込むかまで何でも口頭で相談できる。転職してきたスタッフはもちろん、役員層にも日々活用いただいている」と横山氏は話す。講演に登壇した週も「予約だけでも既に8件の申し込みがある。相談数は日に日に増えている状態だ」(同)とした。
1対1の個別相談のほか、1対Nの研修や経営層向けアプローチも進めている。経営観点では生成AIをどのようにとらえられるか、今後社会的にどう広がっていくかといったセミナーのほか「具体的な活用効果を数値で提示しトップダウンでの訴求を並行して進めた」(横山氏)。例えば「生成AI技術の利用で1人が1日1時間業務時間を削減できれば、同分野では年間数十万時間の削減が見込める」(同)といった点だ。
こうした「“現場に寄り添う姿勢”を徹底した甲斐もあり、各部門が『生成AI祭り』と呼ぶほどに、想定を大きく超える盛り上がりが起きている。生成AI技術の活用に前向きに取り組むようになってきた」と横山氏は話す。

