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Amazon.comに見るデジタルの力【第2回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2017年10月23日

第1回の「ネットとリアルの融合」の項でも触れたが、小売業界における米Amazon.comの存在感がさらに増している。デジタルテクノロジーによる変革は、サービスや製品、プロセスや仕事の仕方を変え、 顧客にはCX(Customer Experience:顧客体験)として、その行動や意識に影響を与える。今回は、デジタル変革によってリードしてきたAmazonのイノベーションの歴史をたどり、デジタルビジネスの成功要因を考えてみたい。

 2017年9月8日付の日本経済新聞に『ネット消費 大型店のむ−トイザラス破産申請検討か/ギャップ200店閉鎖−』という記事が載った。ネットによって引き起こされた破壊的イノベーションが消費者の意識や購買行動を大きく変え、カテゴリーキラーとして変革を起こしてきたトイザラスの存在にまで影響を与えたのだ。

 衣料や家電のネット通販の比率は、米国で7%、Alibabaが強い中国では15%、日本では5%である。これだけの比率でも実店舗への影響は多大だ。この比率は今後さらに高まり、小売りビジネスや店舗の在り方に、より大きな影響を与えることだろう。

ビジネスモデルとデジタルテクノロジーによる具現化

 米Amazon.comはジェフ・ベゾス氏によって創業され、1995年に書籍のオンライン販売を開始した。当時「Brick(レンガ) or Click」と言われ、Brickすなわち実店舗とネット販売(Click)のどちらが勝者になるかと注目を集めた。その後、オンライン販売の成長を見た既存の書籍販売業者も参入したが、この戦いを制したのはAmazonである。

 ビジネスで成功する大きな要因にビジネスモデルがある。誰に、どのような価値を与え、その価値をどう生み出していくかのモデルである。Amazonのビジネスモデルとして、そのアイデアをジェフ・ベゾス氏がレストランで紙ナプキンに書いたものが知られている(図1)。

図1:ジェフ・ベゾス氏がレストランで紙ナプキンに書いたといわれるAmazonのビジネスモデル

 右側に顧客(Customer)、左側に販売者(Sellers)がいて、その間で価値を提供するのがAmazonである。一本の矢印は、販売者が売っている製品を選び(Selection)、そのセレクションや品揃えを価値として顧客に提供する流れを示している。もう一本の破線矢印は、低コストの販売や物流の仕組み(Low Cost Structure)によって低価格(Low Prices)を価値として顧客に商品を提供する流れである。

 商品選択と低価格を価値として、取扱高を増やしていく(Traffic)ことによって継続的な成長を実現するモデルである。顧客価値と、どこで差別化をするのが明確に定義されている。

 このモデルを支えるのがデジタルテクノロジーだ。ネット販売における書籍検索や、オンラインで購入できる利便性(一度のクリックで購入ができるワンクリックは特許を取っている)に始まり、ネット上での展開による価値を次々に実現することによって差別化を強化してきた。他人のレビューを参考にできる機能や、販売動向や購入履歴等のデータに基づくレコメンデーションによる情報提供などである。

 品揃えでも、売上高は小さいが長期間売れていく商品、いわゆるロングテール商品は、実店舗ではスペースの関係から置ける数に限度がある。だがネットでは制限がない。このようなネットでの強みによって、実店舗とは明らかな差別化を実現しCX(顧客体験)も変えてきた。

ネット販売のプラットフォームとして他商品に展開

 Amazonは、既存の仕組みにデジタルテクノロジーを適用するのではなく、最新のデジタルテクノロジーを想定したビジネスモデルを考え、そのビジネスモデルの顧客価値の実現と差別化を図るためデジタルテクノロジーを活用してきたと言える。

 書籍のネット販売によって具現化したビジネスモデルをAmazonは、ネット販売のプラットフォームとして他の商品に展開することでEC(Electric Commerce:電子商取引)のリーダーとなって成長を続けている。このプラットフォームは、顧客との関係、ビジネスパートナーとの関係の基盤であり、インフラとしてクラウドが支えている。

 クラウド化によって、インフラを簡単に使え、ビジネスサイズが大きくなっても自動的にスケールすることが可能である。インフラの管理・運用を効率化でき、Low Cost Structureとして差別化に貢献する。さらにインフラを迅速なビジネスの具現化のプラットフォームへと進化させ、様々な商品への展開やサービスの追加に迅速に対応できる開発環境やツールの充実も図っている。

 Amazonは、このITプラットフォームを2002年、AWS(Amazon Web Service)として、一般企業を対象にしたサービスとして提供し始めた。AWSはAmazonを支えるインフラであるとともに、それ自身がビジネスである。結果、AWSは急成長し、パブリッククラウド市場で40%を超えるシェアを獲得するリーダーになり、Amazon自身の業績にも大きく貢献する存在になっている。その進化は続いており、2016年には1017もの機能拡張・改善を行っている。

 自社の既存ビジネスや新ビジネスをデジタルテクノロジーの基盤として支えることは、ビジネスの迅速な展開・拡大になくてはならないものになっている。Amazonはその強みをAWSとして他社に提供しており、競争力を維持するための継続的な強化、ノウハウや人材の確保につながっている。