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AI時代のUI(User Interface)/UX(User Experience)の進化【第95回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年8月18日

デジタル化の進展によりシステムと利用者のインタフェ−スである「UI(User Interface)」の重要性が高まっている。さらに「UX(User Experience:顧客体験)」という言葉の利用も広がっている。多くの優れた機能を搭載・提供しても、UIが適当でなければ正しく使われず、UXが低ければCS(Customer Satisfaction:顧客満足度)は高まらない。今回はDX(デジタルトランスフォーメーション)との関係が強まるUI/UXについて考えてみたい。

 デジタル化の進展や、製品のSoftware Defined(ソフトウェアによる定義)化により重要性が高まっているのが、利用者とシステムの間を取り持つインタフェースである「UI(User Interface)」である。「UX(User Experience:顧客体験)という言葉への関心も高まっている。

 UIは、視覚的な見た目や操作などに焦点を当てた言葉である。一方のUXは、製品/サービスを利用した際の総合的な体験や感覚などを評価するものだ。利用によって得られる経験が重要であり、サービスやシステムの概念モデル、サービスによる提供価値を合わせて総合的に判断される。

 UXの向上は、製品や顧客のロイヤルティを高め、ブランド価値を向上させ、CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)の向上に不可欠である。UIはUXの一部になる。例えばEC(Electric Commerce:電子商取引)サイトなどでは、機能の理解が容易で商品を見つけやすく、すぐに注文ができたり、求めることを素早く実行できたりする新しい経験が良いUXになる。

ECサイトのデファクトになった米Amazonのワンクリック特許

 UXは、製品/サービスの競争力に大きな影響を与え、売り上げにも影響する。特にデジタル製品やデジタルサービスでは販売に直結する。UXの変革によって世の中を大きく変えた例もある。実例として、米Amazon.comの「One Click」特許と米Appleの「iPhone」を見てみたい。

 かつてのECサイトでは、製品を選択した後に、住所や支払い情報を入力する必要があった。これに対し、住所や支払い情報を事前に保存しておき、それを使って製品を選択すればすぐに購入できるようにしたのがAmazonのワンクリック特許である。ECサイトの利便性を高め、住所や支払い情報などを入力している間に購買要求が覚めてしまい購入を放棄してしまうことを減少させた。

 そうしたUXをAmazonは特許によって独占し、同様のUXを実装できない他社に対する優位性を確保した。さらにAmazonは、ワンクリック特許のライセンス契約による売上増を実現した。モバイルでの活用が進み、入力のさらなる簡略化が必要になり、ワンクリックの価値は高まった。同特許は2017年に失効したが、その後もSNS(Social Networking Service)などの個人情報と結びつけたワンクリック方式のECサイトが増えるなど、デファクトになっている。

 このようにワンクリック特許は、入力を減らし操作の簡略化を図り、予め保存している情報を使うことで安心して購入することを可能にした。保存した情報に関連付けされたデータによって、顧客動向を知り、商品のリコメンドによる販売促進も可能になった。

 購入や申込みまでの障害を減らすことで、Webサイトにアクセスした顧客が目的の行動を取ってくれる割合であるコンバージョン率の向上や、サービスからの離脱率の低下、CSの向上にもつながる。より良いUXを実現することが差別化要因になり、製品/サービスのCSを高め離脱率を低下させられる。ワンクリック特許は、サービスの競争力向上に貢献するUXの変革だった。

指での操作や機能追加を可能にした米AppleのiPhone

 iPhoneは製品/サービス自体を変革したUXの代表例である。iPhoneは、携帯電話機とインターネット端末、音楽プレーヤー「iPad」を1つにした統合型の携帯機器である。1つのデバイスで、仕事から生活、エンターテインメントまでをカバーし、UXを大きく変革した。

 一般に、1つのデバイスにさまざまな機能を搭載すると、その操作が課題になる。だがiPhoneは、フルスクリーンのタッチディスプレイにより、ボタンやキーボードやペンではなく、指で操作する新しいUI/UXを提供した。

 2本の指によるタッチ(マルチタッチ)を可能にし、指のスライドによるスクロール(スワイプ)や、指を広げることによるズームイン・アウト、アプリケーションアイコンのタッチによる開始など、直感的な操作を実現した。ボタンによる操作より柔軟で、さまざまな使い方を提供する。フルスクリーンでの指による操作は、PCや他のデバイスにも広がるなど、UXを大きく変えた。

 また、アプリをダウンロードすることで、新しい機能を付け加えられるようにもした。新しいアプリは「App Store」にアクセスすれば入手できる。この仕組みによりiPhoneの機能は、製品購買後も多機能化を図れるようになった。

 こうした操作方法やアプリ追加の仕組みは、iPhoneの強みとして販売拡大に貢献した。どこでも“コネクティッド(ネットワークにつながっている)”な状態で使える常時携帯デバイスの登場は、さまざまなアプリを生み出した。誰もが手軽に高画質な写真や動画を撮影し共有することは、写真や動画の活用の幅を大きく広げ、その意味をも変えた。

 さまざまなアプリやSNS、ゲーム、音楽、ショッピング、仕事効率化アプリなどの登場は、時間の使い方も大きく変えた。加えて、情報や、写真・動画、メール、メモ、連絡先などのデータがバックアップされ蓄積・同期できるようになったことは、クラウドビジネスやAI(人工知能)技術によるデータ活用へと広がり、ビジネス拡大に貢献している。

 このように、人と、デバイスやクラウド、AIなどのソフトウェアといったコンピューターシステムとのコミュニケーションをどう実現するかは、それらが提供する価値の1つとして大きな位置を占めている。