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- 大和敏彦のデジタル未来予測
AI本格時代を迎えたFintechと金融変革の行方【第94回】

金融ディスラプション(破壊)は加速し、金融業界の変革が続いている。銀行サービスは24時間365日のオンラインサービスになり、金融機関同士のM&A(企業の統合と買収)や提携、非金融業界による銀行サービスの開始や金融機関の買収が続いている。一方でセキュリティ犯罪が増加し、顧客情報の漏えいや証券口座の乗っ取りが増えている。今回は、金融DX(デジタルトランスフォーメーション)によって起こっている変革の現状を確認してみたい。
『キャッシュレス化がFintechのイノベーションを加速する【第81回】』で、さまざまな産業への銀行機能の提供や、銀行機能の統合、生成AI(人工知能)技術による変革を述べた。それを背景に、金融業界でのM&A(企業の統合と買収)や提携が増えている。銀行業務を自社サービスとして取り込み、既存サービスと組み合わせることで次の成長を目指す。
モバイルキャリアが新ビジネスのために金融機関を買収
一例として、モバイルキャリアによる金融機関の買収を見てみたい。モバイルキャリアに対し国は、スマートフォンを中心としたモバイル通信で高い収益を得ていることを問題視している。それだけに“次の成長の柱”が必要である。そうした状況下でモバイルキャリアが注力する分野が2つある。
注力分野1 :企業のDXを後押しすることによる法人顧客の取り込み
注力分野2 :ネットワークインフラを活用した新ビジネスの取り込み
社会インフラとしてモバイル事業を成長させるためには、ビジネスのための通信インフラとしてのネットワーク活用を増やす必要がある。それを加速させるのが、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を後押しする法人事業だ。クラウドとIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、AI(人工知能)などの技術を組み合わせた仕組みと、それを実現できるだけのシステムインテグレーション体制を提供する。
この取り組みは、本格的な5G(第5世代移動通信)の展開、その先の6G(第6世代移動通信)の利用を進める意味でも重要だ。中国のように、5Gのビジネス活用推進のため、通信会社とシステム会社が提携し成功している例もある。モバイルキャリアは、提携やM&Aによってシステム構築力の強化を図っている。NTTがNTTデータを完全子会社化し総合IT企業に脱皮しようとしているのも、同様の動きである。
もう1つの注力分野が新ビジネスの推進である。金融のデジタル化によって、金融事業はネットワークを活用したビジネスになった。モバイル通信の顧客基盤を活かし、スマホを使ったクレジットカードや決済サービス、さらには個人向けローンや保険までをビジネスにすることで、自社のモバイル顧客を囲い込み、デジタル金融サービスによる増収を目指す。
その実現のため進めているのが金融機関の買収や提携だ。KDDIは「auじぶん銀行」を、ソフトバンクは「PayPay銀行」を、そして楽天モバイルは「楽天銀行」を、それぞれ自社グループ内に保有し、いずれもが、みずほ銀行と提携してもいる。NTTドコモは、マネックス証券の買収や住信ネット銀行へのTOB(株式公開買付け)を実施している。金融機能を持つことで他のサービスとの連携が可能になる。
デジタル化・データ化を背景に銀行の機能がサービスに
同様の動きは通信業界以外にも見られる。JR東日本とビューカードは楽天銀行を所属銀行とした金融サービス「JRE Bank」を開始した。このような非金融業界の動きに対し、金融業界内でのM&Aや提携も盛んで、新世代金融サービスに向けた戦略を展開している。
例えば、三菱UFJ銀行がFintech企業のWealthNaviを買収した。三井住友フィナンシャル(SMBC)グループは、三井住友銀行の決裁とカード、証券、保険などの金融サービスをまとめたスマホ向け総合金融サービス「Olive」を提供しており、SBIホールディングとSBI証券と共同で、新たな資産運用サービスを構築している。
こうした動きの背景には、デジタル化やデータ活用の進展がある。デジタル化によって業務フローの変革や効率化、自動化が進む。データ活用は、モノとお金を統合し新しいサービスの創出を可能にする。オープンバンキングによって銀行が保有する顧客や財務、取引履歴などのデータがAPI(Application Programming Interface)経由で外部に開放され、他の企業が新サービスを開発しやすくなっている。
銀行の機能を提供するクラウドサービスが「BaaS(Banking as a Service)」である。金融機関が提供するAPIによって、貯金、融資、為替などの銀行機能を小売りや自動車メーカーなど、さまざまな企業が自社サービスに組み込める。銀行のライセンスを持たない事業者でも「Embedded Finance」と呼ばれる銀行機能を提供できるわけだ。
Embedded Financeの例が「Uber」のスマホアプリだ。支払方法を事前に設定しておけば降車時の支払いや会計は不要になる。このように自社サービスに金融機能を組み込む統合化が広がっている。