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人型ロボット(ヒューマノイド)との協働が始まる【第93回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年6月23日

人型ロボット(ヒューマノイド)は、その形状が人体に似ているロボットである。EV(Electric Vehicle:電気自動車)大手の米テスラは、2025年に人型ロボットを量産し5万台を生産すると発表した。国際ロボット連盟(IFR:International Federation of Robotics)はロボット市場に関する統計データ『World Robotics 2024』において、製造業向けロボットのトレンドとして「人型ロボットの活用」を第2位に挙げている。人型ロボットの市場が立ち上がろうとしているなかで今回は、人型ロボットの現状と今後を見てみたい。

 中国の北京で、人型ロボット(ヒューマノイド)によるハーフマラソン大会が世界で初めて開催された。21体が出場し、うち4体が完走した。トップは、北京Xヒューマノイドロボット・イノベーションセンターの「天工Ultra」という身長180センチメートル、体重55キログラムのロボットで、2時間40分42秒というタイムでゴールインした。

 このマラソン大会の目的は、タイムを競うことよりも、ロボットの運動能力や姿勢制御、連続稼働のための耐久性、エネルギー管理など二足歩行ロボットの進化の確認にある。

 二足歩行で耐久性の高い人型ロボットは、人が担ってきた作業を設備や構造を変えずに置き換えられる。その活用は、工場や物流現場での作業、介護施設や病院での医療や要介護者の介護、危険な現場での救助活動、教育やエンターテイメント、宇宙探索など、さまざまな分野で進もうとしている。

 調査会社の米Fortune Business Insightsは、世界の人型ロボットの市場規模は2024年の10億米ドルが2032年までに660億ドルにまで成長すると予測している。人手不足やスキル不足、さらに自動化の増加が人型ロボットの利用を後押しする。

センサーやアクチュエーターなど構成要素それぞれの開発が進む

 ロボットは、センサーからの入力を受け、それを判断し、アクチュエーターの動きを制御することで動作する。従ってロボットの構成要素で重要になるのは、感知や識別を行うセンサー、駆動系のモーターやアクチュエーター、それらを制御するための知能となるAI(人工知能)技術と動作環境としての高性能コンピューター、エネルギー供給のためのバッテリー技術である。これらの要素がシステムの制御によって連動し、調和して動く必要がある。

 それぞれの構成要素の最新状況を見てみたい。まずセンサーとしては、さまざまな小型センサーが開発されている。

 例えば、ロボットの状況を把握するためにモーターの回転角度や速度を測定するセンサー、各部品やモーターの温度を知る温度センサー、電流センサー、移動や振動、姿勢の変化を検知する加速度センサーやジャイロセンサー、外部の状況を把握するために位置や形、色などを捉えるカメラセンサー、接触時の圧力を測定する圧力センサー、周囲の物体までの距離を測定する距離センサーなどがある。

 内部に設置したセンサーによって内部状況を把握し、ロボットを安定かつ正常に動作させる。外部センサーを使って外部状況を把握し、動作を判断してアクチュエーターを制御して実際の行動を実行する。

 高性能なアクチュエーターの開発と高精度な制御技術の進化は、ロボットの動きの自由度を高め、複雑な動きを可能にし、活動性を高めている。二足歩行や走行が可能になり、ダンスや宙返りをするロボットも生まれている。知能・制御の進化はAI技術によって加速している。

 ロボットの頭脳としては、高性能プロセサの実装や、機械学習による制御や行動の学習が進んでいる。ロボットのための基本ソフトウェア(OS:Operating System)の開発競争も激しくなっている。

 ロボットメーカーが開発するOSだけでなく、米Googleはロボット制御用の生成AI技術「Google Gemini Robotics」を開発し、ロボットを直接制御できるようにした。米NVIDIAも、人型ロボットの思考や推論およびスキルの蓄積を実行するためのカスタマイズ可能な基盤モデル「NVIDIA Isaac GR00T N1」を発表した。技術開発は続き、人型ロボットが実行できることは増えていく。

Teslaの人型ロボット「Optimus Gen3」は2万ドル以下が目標

 人型ロボットの一例としてTeslaのロボット「Optimus Gen3」をみてみたい。Optimus Gen3は、人間の動きを模倣するために人工腱と靭帯、筋肉を模した骨格構造を持ち、それらを23個のアクチュエーターで制御している。そのための判断や行動の決定のために、知能・制御を担う強力なプロセサを搭載する。

 EVで培ったバッテリーやエネルギー管理の仕組みを実装し、自動運転技術で培った画像認識やセンサーによって状況を把握する。最大時速8キロメートルでの移動や階段を含む複雑な地形の踏破が可能であり、20.4キログラムまでの荷物を運べる。

 これらの機構が身長173センチメートル、体重56.7キログラムというきょう体に収められている。新型のアクチュエーターによって、なめらかな動きや自然な速度で走行を実現している。手には22の自由度があり、扱う物体を感じ、握力を調整することで複雑な作業もこなせるという。

 ロボットの学習には、自動運転技術の開発にも使用する専用チップを搭載するスーパーコンピューター「Dojo」を使っている。遠隔操作での訓練が可能で、自律的な訓練ができるようなことも考えている。この人型ロボットをTeslaは2万ドル以下で販売することを目指している。

 これらの機能や性能を見ると、人の動きを模倣することによって、これまで人間にしかできなかった繊細な作業も実行できるだけに、さまざまな活用シーンが考えられる。2万ドルという価格も導入を容易にする。