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IoTやAIの最新サービスを支えるクラウドの進化と価値【第4回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2017年12月18日

パブリックからプライベートクラウドへのシフトも

 IaaS/PaaSのクラウド市場は、米国のクラウド事業者の巨大化・寡占化が進んでいる。AWS(Amazon Web Services)がリードし、Microsoft、IBM、Googleが続く(表1)。

表1:クラウド事業者のマーケットシェア(『Worldwide Market Share Q2,2017』、Synergy Research Groupより)
クラウド事業者名マーケットシェア伸び率(過去1年)
Amazon(AWS)34.0%1.0%
Microsoft11.0%3.0%
IBM8.0%0.0%
Google5.0%1.0%

 彼らは、自社で標準化した安価なハードウェアの活用や、オープンソースソフトウェア(OSS)の採用、オペレーションの標準化と自動化、電源や消費電力の改善などに継続的に取り組むことでコスト削減を図っている。そのうえで、新しいサービスの開発や新機能の提供といったイノベーションにより競争力が高いクラウドサービスを提供している。

 シェア3位のIBMは、ホステッドプライベートクラウドが好調だ。プライベートクラウドは、企業自身が専用のクラウドを構築し、社内の部門やグループ会社にクラウドサービスを提供する形態であり、ホステッドプライベートクラウドは、データセンター事業者の設備内に、専用のハードウェアや仮想環境によってプライベートクラウドを実現する。IBMは、「ベアメタルサービス」と呼ばれるクラウドデータセンター内に置いたサーバーを企業が専用で使える環境を他社に先駆けて投入するなど力を入れている。

 プライベートクラウドを選択する理由はいくつかある。1つがセキュリティだ。パブリッククラウでは、提供されるサービスが標準化されているため、各種制限がある。独自のセキュリティやプライバシーポリシーを実現したい場合に、この制限が問題になることがある。

 パフォーマンスに敏感なミッションクリティカルなアプリケーションや、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)のような処理を実行する場合も注意が必要になる。パブリッククラウドは、不特定多数のユーザーが共有するハードウェア環境を使うためである。

 コストを比較してみても、基幹系アプリケーションのように定常的なコンピューティング資源を使うような場合、そのワークロードにあったプライベートクラウドを構築したほうがコストは下げられる。このように自由度やコスト面からプライベートクラウドの活用が広がりつつある。

 プライベートクラウドを構築するためのプラットフォームにも変化が起こっている。これまで、AWSと互換性があるOSSのクラウドOSである「OpenStack」が最有力候補だった。それが最近は、「ハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)」と呼ぶプラットフォームの勢いが増している。

 HCIは、1つのサーバーあるいはアプライアンスに、ソフトウエアベースのサーバー機能とストレージ機能を組み込んだ製品である。導入や運用が容易で、迅速にスケールアウトができるといったメリットがある。ハイパーバイザーやAPI(Application Programming Interface)、コンテナなどの実装により、HCIとパブリッククラウドの間でアプリケーションのポータビリティも実現している。ハードウェアとソフトウェアのそれぞれを導入・管理しなければいけないOpenstackと比較して、容易性や実現スピードで勝る。

ハイブリッド環境でのアプリの可搬性も向上

 プライベートクラウドの利用が広がってくると、パブリックとプライベートそれぞれの良さを生かして使用するハイブリッドクラウドが重要になってくる。ハイブリッド環境においては、統合管理、シームレスなデータ活用、コンピューティング資源の活用が、重要な要件として求められる。

 そうしたハイブリッド時代を目指し、IT企業の動きも騒がしくなってきている。米Cisco SystemsとGoogle、米NutanixとGoogle Cloudのようにプライベートクラウドソリューションのベンダーとパブリッククラウド事業者の提携も進んでいる。。

 ハイブリッド環境は今後、分散クラウドやエッジサーバーまでをも包含していく。複数のクラウドが統合された環境でアプリケーションは、求められるサービスレベルを満たしながらも、最も廉価に実行できるクラウド上で稼働することになる。そのためには、ハイブリッド環境の統合管理、アプリケーションの特性管理、アプリケーションのポータビリティが不可欠になる。

 こうしたソリューションを提供する企業も出てきている。Google Cloudと連携したNutanixが、その1社だ。同社は「Calm」と呼ぶ機能で、ハイブリッド環境におけるアプリケーションのライフサイクルである導入から実行、運用までを、自動化と容易化する仕組みを提供する。Calmは、ハイブリッド環境の統合管理ツール「Prism」を拡張するものだ。

 Calmでは、アプリケーションの特性を「Blueprint」という形で管理する。アプリケーションのスケールアップやスケールダウン、アップグレードやセキュリティパッチの適用、ロールバックなどに対応する。アプリケーションやBlueprintを入手するためのマーケットプレイスや、独自開発したアプリケーションのBlueprintを作るためのツールなども用意している。

アプリケーションファーストで考えることが企業の競争力に

 これらの仕組みにより、統合管理されたハイブリッド環境の基で、インフラ活用の自由度や柔軟性が高まる。アプリケーションの稼働要件と利用企業のニーズに基づいてクラウドを選択できれば、アプリケーション中心の開発や運用を考えられるようになり、ビジネス開発や展開のスピードを高められる。

 企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略を進めるに当たっては、クラウドの活用戦略が重要になってきている。クラウドのイノベーションは常に続いているだけに、その動向を把握したうえで、活用の目的を明確にしてクラウドを選択することが、ビジネスや会社の競争力に影響を与える状況になっている。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。