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中国製造業の強みを支える中国版DXの姿【第91回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2025年4月21日

中国の製造業は、政府主導の改革によって製造力と製品競争力が増し、販売力も相まってシェアを伸ばしている。その成果は「新質生産力」と呼ぶイノベーション主導で高い品質を追求する政策の進展を物語っている。今回は、中国製造業の強みを見てみたい。

 2025年、中国政府による「中国製造2025」が最終年を迎え、目標の9割近くを達成したと分析されている。スマートフォンの「Xiaomi」や「OPPO」、ネットワーク製品などの「Hauwei」、PCの「Lenovo」、家電の「Haier」、EV(Electric Vehicle:電気自動車)の「BYD」など、世界に通用するブランドも増えている。

 これらを生産する製造工場もスマートファクトリー化が進んでいる。世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)は米コンサルティング会社のMcKinsey&Companyと共同で、財政や運用で成功したデジタル化の先進工場を「Lighthouse」として選定している。2023年12月に選出された153工場のうち62カ所が中国内の工場だった。2024年10月の選出では22工場のうち12が中国内の工場である。

政府主導の「中国製造2025」が成果を挙げている理由

 中国製造2025は、中国政府が自国の製造業を発展させるために、2015年7月に打ち出した戦略だ。その変革の中心は、大量生産から高付加価値化への転換と、品質の高い製品の生産、製造過程における環境負荷の軽減、および製造現場をインターネット技術と融合しデジタル化を目指すDX(デジタルトランスフォーメーション)である。

 変革を成功させるためには、明確な目標、イノベーション、推進体制、プラットフォーム、人材が重要である。中国製造2025における、それぞれの動きを見てみたい。

目標設定

 中国製造2025が掲げる目標は「2025年までに製造強国へ仲間入りし、2035年までに製造強国の中位へ到達し、2049年までに製造強国のリーダー的な地位を確立する」というものだ。注力すべき戦略分野として、10の製品分野を掲げている(図1)。今後の成長が期待されている分野や重要性が増していく分野をカバーしている。

図1:「中国製造2025」の重大分野に掲げる10大産業

 それぞれの分野に具体的な目標が設定されている。例えば、中国製品のシェアに関して、5G(第5世代移動通信システム)では中国市場で80%、世界市場で40%が目標である。産業用ロボットでは2025年に導入シェア70%を目標にする。高い目標を設定し、その実現に注力することで成果を上げてきた。

 苦戦している分野もある。米国の規制により後れを取った半導体の自給率は2023年時点で23%に留まっている。2027年には27%に達すると予測されているものの、2025年に70%という目標には達していない(米TechInsights調べ)。ただ、Hauweiがスマホに中国製5G半導体を搭載するなど技術力は上がっており、半導体自給率の向上に注力している。

 世界的な競争が激化しているAI(人工知能)に関しては、2017年の「次世代AI発展計画」に基づいて開発を進め、金融や医療、教育、EC(電子商取引)、自動運転など多くの分野で実装を進めている。米国にリードされていた生成AI領域でも、低コストで高性能な「DeepSeek」の開発により追いつき、オープンソース化によって発展していくものと思われる。

 個別の製品や製品分野だけでなく、製造方法や仕組み、ビジネスモデルの変革も目指している(図2)。これを見ると、単に品質の高い製品を生産するだけでなく、製品設計のイノベーションから製品ブランド力の向上まで、開発・製造・デリバリーを全体的に国際化し、そのレベルの向上を目指していることが分かる。

図2:「中国製造2025」における重点戦略

イノベーション

 変革の基礎になるイノベーションでも成果を上げている。中国製造2025はイノベーション主導とされており、イノベーションを開発し、それを特許として取得することにも注力している。その成果は、今後重要になってくるテクノロジー分野である次世代インターネットや、次世代AI、クラウド、ビッグデータなどの特許に表れている。これら分野の特許出願数は中国がトップクラスになっている。

 これらのイノベーションを使った、AI、モバイルインターネット、3D(3次元)プリンター、バイオ工学、新エネルギーや新材料において、新たな活用や新ビジネスが生まれている。