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5Gがもたらすデジタルトランスフォーメーションの可能性【第10回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年6月18日

米通信事業者はコンテンツ分野で積極買収

 5G導入に伴う各種の機能が、どのような形で、どのような価格で提供されるかは、モバイル通信業者の戦略次第である。米国のモバイル通信事業者はすでに積極的な動きを見せている。

 たとえばAT&Tは2015年に、米プロフットボールリーグ(NFL)といった人気番組の放映権を持つ衛星テレビ大手のDirec TV(ディレクTV)を485億ドルで買収したほか、タイムワーナーをも買収した。タイムワーナーは傘下に、映画部門のワーナー・ブラザーズやニュース専門局のCNN、HBOなど多様なコンテンツ事業を持つ、米メディア業界で4位(2015年)の大手である。

 Verizonは20015年にインターネットサービス大手のAOL(現Oath)を44億ドルで買収し、2017年にはYahoo!も買収した。2社が擁するデータと広告ビジネスを手に入れたことで、Verizonはオンライン広告市場で3位の座についている。

 日本企業も、5G時代に向けた戦略を練り始めている。NTTドコモは、2020年のサービス実現に向けて5Gネットワークの構築と同時に、他企業とのソリューション協創を目指している。

 KDDIは、2020年のサービス実現に向けては、「通信企業からライフデザイン企業へ」をビジョンに掲げサービス事業の強化を図っている。その一環として、米通信事業者同様に、コンテンツ企業の米Netflixと提携した。

 ソフトバンクは、5G ネットワークの普及とともに、スマートカーやロボット、VRなどのサービスを、買収した英ARMが持つCPUと組み合わせて広げることを計画している。

 各社とも、消費者にネットワークアクセスを売るビジネスから、ほかのビジネスラインへ拡大することを狙って準備を進めていることは明らかだ。

モバイル通信事業者とOTTの協業や競争が続く

 ネットワークという配送路を提供する通信業者は、その上で通信容量を大量に使用するGoogleやAmazon、Facebook、NetflixなどのOTT(Over The Top)企業と、より付加価値が高いビジネス市場を取り合う形で、これまでも競争を続けてきた。だがOTTが遥かにリードしているのが現状だ。

 ただ5Gの展開には巨額の投資が必要になる。5Gのための機器や、これまでより密度の高いアンテナの設置、高速通信を実現するコアネットワークの整備などのためである。SprintとT-Mobileの統合の発表では、3年で400憶ドルを投資するとしている。

 それだけにモバイル通信業者は、5Gによってインフラが大きく変わるチャンスをとらえ、5Gの特徴を生かしてビジネス範囲の拡大を図ろうとしている。5Gによる新しいビジネスチャンスに向けて、モバイル通信事業者とOTTの協業や競争が続けられる。

 このように5Gテクノロジーは、ネットワークやネットワークの使い方に大きなインパクトを与えるだけでなく、新しいビジネスチャンスやビジネス変革のチャンスを生む。これらのテクノロジーと動向を見据えた5Gテクノロジーの活用がビジネスチャンスにつながっていく。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。