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5Gがもたらすデジタルトランスフォーメーションの可能性【第10回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2018年6月18日

モバイル通信において、次世代のモバイル通信規格である「5G(Fifth Generation)」の商用化が迫ってきている。5Gは、超高速で大容量、かつ低遅延な通信を実現する。今までのネットワーク環境を強化・拡張するだけでなく、ネットワークによる変革や新ビジネスの可能性を広げる。今回は、5Gで何が変わろうとしているか、また、それによってどのような可能性が生まれてくるのかを考えてみたい。

 モバイル業界では今、米国でのSprintとT-Mobileの合併や、日本での楽天の参入といったニュースで賑わっている。テクノロジーの側面では、実用化が視野に入ってきた「5G(Fifth Generation)」が最大のニュースであり、企業の動向にも大きな影響を与えている。

 5Gは、日本では2020年の商用化に向けて準備が進んでいる。だが米国では、米AT&Tと米Verizonが2018年中にも商用化する計画を打ち出している。中国や韓国、欧州でもすでに、大規模な試験運用が実行、あるいはその準備が進む。

モバイル通信の発展がトラフィック増を生み新たな規格を求める

 ここでモバイル通信の歴史を振り返っておく。アナログ通信の第1世代(1G)に始まり、デジタル化された第2世代(2G)へと進化し、第3世代(3G)から国際統一規格が採用された。「3GPP(Third Generation Partnership Project)」と呼ばれる組織が、無線ネットワーク、サービスとシステム、無線ネットワークをつなぐコアネットワークと端末について、それぞれの規格を決めている。3Gでは、高速化したマルチメディア通信が採用され、電話とデータ通信が統合された。

 第4世代(4G)で使われている技術が「LTE(Long Term Evolution)」である。LTEは当初、3Gと4Gを橋渡しする通信規格とみなされていたが、現在はLTEを使った通信を「4G」と呼ぶ通信キャリアが一般的になっている。

 4Gでは、インターネットで使われているパケット通信方式が、データ通信だけでなく電話にも使われることになった。多重化やデータ変調の技術によって、有線のブロードバンドと同等の下り100Mbps(ビット/秒)、上り50Mbpsという高速化と低遅延化を実現。モバイル環境におけるビデオ視聴など多くのアプリケーションの実行を可能にした。

 結果、モバイルネットワークの使用は増加し続けている。米Cisco Systemsが発表している『VNI(Visual Networking Index)』によれば、デバイスの接続数は2014年の74億が2019年には115億になる。それに伴いモバイルIPトラフィックも、2014年の年間30エクサバイトが2019年には年間292エクサバイトに達する。

 こうしたトラフックをカバーするためには、高速の無線技術を含むネットワーク自体の増強と、その環境を多くの人やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)のような“モノ”が使えるスケーラビリティ(拡張性)が必要になる。それが5Gである。

5Gはネットワークの使い方を大きく変える

 これらの技術開発は、ネットワークの使い方やその応用に変革を起こす。次世代モバイル通信技術の発展および標準化を推進している「NGMN(Next Generation Mobile Network alliance)」は、5Gのユースケースとして次の8つを挙げている(図1)。

図1:「NGMN(Next Generation Mobile Network alliance)」が挙げる5Gのユースケース

 図1の例を見てみると、5Gによる高速化、低遅延化、およびスケーラビリティの実現によって、用途の高度化と多様化が可能になることがわかる。ビデオ活用の拡張や高度化が進み、IoTやモバイルコミュニケーションの活用を加速させる。これらは新ビジネスや自社のデジタル化の強化のチャンスだと見ることができる。

 ただし、リアルタイムコミュニケーションに関しては注意が必要だ。同分野では、VR(Virtual Reality:仮想現実)/AR(Augmented Reality:拡張現実)/MR(Mixed Reality:複合現実)や、自動運転などの分野が可能性として挙げられている。遅延の減少によって、VR機器や自動車とクラウドの連携において、実際の処理をクラウド側に移すことで、機器がより安価になり、幅広く活用できるようになるとされている。

 だが、この場合の伝送速度や遅延は、単に機器が直接つながる無線ネットワークだけでなく、コアネットワークや、クラウドとの接続ネットワーク、クラウド内のネットワーク、クラウドで処理時間など、エンドツーエンド(End to End)における時間の総和で考えなければならない。

 企業や家庭のネットワークやサービスも大きく変わっていく。光ファイバーと同等以上のスピードを実現し、かつ有線なしの「オールワイヤレス」が実現できるからだ。実際、AT&T社は「5Gのテクノロジーは、数百万の家庭や企業に対し、より早いスピードをファイバーの設備工事や配線なく提供できる」と言っている。

 家庭では、光ファイバーと同様以上の品質、性能のネットワークが提供され、それを前提に、より高度なサービスが始まる。企業においても、5Gのネットワーク上に仮想ネットワークを作ることで、社内ネットワークを構築できるようになる。仮想ネットワークが簡単に設定できるため、Network as a Serviceとして、ネットワークをサービスの形で提供するビジネスが広がる。