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激しさ増す動画コンテンツ配信のビジネスモデル競争【第23回】
ビジネスモデル2:有料サービスの一環として展開する
この分野の代表は米Amazon.comの「Amazon Prime Video」である。AmazonのPrime会員であれば、Prime Videoは無料で視聴できる。動画配信サービスとしてPrime Video自体の人気は高く、米国内の視聴者数は2017年時点で2600万人だった。それでもPrime Videoそのものを単独のビジネスにはせず、サブスクリプションモデルであるプライム会員に向けた特典の1つとして提供する。
Prime会員モデルは2005年にスタートした。Amazonは、これをEC(Electric Commerce:電子商取引)、サードパーティ マーケットプレイスに続く3番目の収入源に位置付けており、さまざまな特典によって会員獲得を進めている。
米国でのPrime会員年会費は119ドル(1万3000円弱)である。会員数は2018年12月に1億人を突破した。つまり米国での会費収入だけで年間119憶ドル(1兆3000億円弱)を稼ぎ出す。Prime会員を増やすことによって、会費収入の増加だけでなく、AmazonのロイヤルカスタマーとしてECの利用額を増やすことに成功している。1年間にAmazonで購入する金額は、非会員の600ドルに対し、Prime会員は1400ドルと倍以上を購入している(米Consumer Intelligence Research Partners調べ)。
Prime会員を増やすためAmazonもオリジナル作品に投資し、その作品の人気によって会員を増やしている。たとえばオリジナル作品の『高い城の男』というシリーズドラマは、世界中で800万人が視聴したと言われ、そのうち110万人が新規にPrime会員に加入したという。新規加入者の年会費と、会員としての購買額の増加を考えれば、オリジナル作品の制作への投資は十分な価値がある。
ビジネスモデル3:広告収入によって無料で提供する
この分野の代表は、「YouTube」や「Facebook Video」だ。広告収入に支えられた無料モデルであり、広告が表示される代わりにビデオを無料で見られる。グローバルなトラフィックを見てみると、Netflixの26.6%、Amazon Prime Videoの5.7%に対し、無料モデルのYouTubeは21.3%、Facebook Videoは3.4%を占めている(表1)。
順位 | 動画サービス名 | トラフィックシェア |
---|---|---|
1 | Netflix | 26.6% |
2 | YouTube | 21.3% |
3 | Amazon Prime Video | 5.7% |
4 | Facebook Video | 3.5% |
5 | Hulu | 0.4% |
広告モデルは、テレビ放送を支えてきたモデルだ。そのテレビ視聴がインターネットやモバイルに置き換わっている。米国を例にとると、2018年にモバイルに使われる時間が1日226分になり、テレビ視聴に使われる時間を上回った。動画配信サービスに費やす時間も、テレビ放送の29%を占めるようになっている。
そのような状況でありながら、テレビ広告に使われている広告費700憶ドルのうち動画配信サービスは3%しか獲得できていない(Magna Global調べ)。テレビ広告の費用は、動画配信サービスだけでなく動画以外のインターネット広告にも流れており、すべてが動画配信サービスに行くわけではないが、広告モデルの動画配信サービスの成長余力は十分にある。実際2018年には、前年比54%増に成長した。
ネットワークの増強迫られるキャリアもコンテンツ領域を強化
動画配信のビジネスモデルの別に、代表的なOTTの動向を述べてきた。だが動画配信サービスには、テクノロジーとして動画配信のためのシステムや、コンテンツやユーザー管理のためのシステムと、動画をユーザーに届けるためのネットワークが必要である。
なかでも、ネットワーク帯域が消費されボトルネックになることも多く、単に配信サーバ―を増強したりCDN(Contents Delivery Network)を活用したりするだけでは解決しない。
現状、全世界のネットワーク利用トラフィックのうち58%が、ダウンストリームの映像配信に使われている。米国では夕方の使用ピーク時には、40%以上をNetflixが占めることもあるという。結果、ボトルネックとなる部分ではネットワーク帯域は制限され、遅延が発生する。動画の使用頻度が増え、高画質化に伴う必要な帯域も増えれば、この比率はさらに増加すると予測される。
必要な帯域の増加に対応するには、キャリアやISPによるネットワーク増強の投資が必要になる。一方、帯域増加の原因であるNetflixなどのOTTは、インターネットの増強には一切投資することなく、サービスによる収入を増やせる。
キャリアのネットワーク増強は、ユーザーの使用料金によって賄われる。だが、その使用料金も、定額制が主流になり使用帯域に応じた収入が得られるわけではない。結果、キャリアがビジネス機会を拡大するために、OTTのビジネス領域へ進出することになり、戦いはさらに激しくなる。
たとえば、米通信大手のAT&Tは、米メディア業界で45位(2015年)のタイムワーナーを買収し、コンテンツビジネスに力を入れている。タイムワーナーは、米プロフットボールリーグ(NFL)などの放映権を持つ衛星テレビ大手のディレクTVや、映画部門のワーナー・ブラザーズやニュース専門局のCNN、映画専門のHBOなど多様なコンテンツ事業を傘下に持つ。米Verizonは、AOLやYahoo!を買収した。
日本のキャリアも独自サービスとOTTとの提携によってコンテンツビジネスの拡大を図っている。NTTドコモは、独自の「dTV」やスポーツに特化した配信サービス「DAZN」との提携のほか、ディズニーのサービスに対し認証基盤と決済サービスを提供する。KDDIは、独自の「ビデオパス」に加え、Netflixのコンテンツ利用料金とスマホの大容量データ通信料金をセット料金として提供を始めた。
配信型に変わるゲーム業界で同じことが起ころうとしている
ネットワーク環境は、5Gサービスの開始によって、高速・大容量で、多数の端末との接続が可能になる。動画配信サービスの競争も厳しくなり、さまざまなコンテンツが提供される。その中でTV放送も大きく変わっていく必要がある。
各社がオリジナルコンテンツに力を入れているように、コンテンツの力が競争力につながる。インフラとしては、動画配信だけでなく、Netflixのようにデータ活用のためのプラットフォームも重要になっていく。そして、このような動きが今、ゲーム業界でも始まろうとしている。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。