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激しさ増す動画コンテンツ配信のビジネスモデル競争【第23回】
米ウォルト・ディズニーや米アップルが独自の動画コンテンツの配信サービス(動画配信サービス)を開始した。ネットワークの高速化により、どこでも高画質なストリーミングビデオが見られる時代になった。今回は、B2C(企業対個人)分野の動画配信サービスの現状とビジネスモデルを見てみたい。
動画配信サービスとは、放送や、ケーブルTVなどの有料チャネル、OTT(Over the Top)など、ISP(Internet Service Provider)や通信業者以外が提供するインターネットを使った映像配信を指す。
インターネットの通信スピードが遅かった時代は、ビデオをダウンロードしPC上で再生する方法が採られていた。それも、インターネットの帯域が増し、家庭やモバイルへと普及したことで、データセンターからクライアントに配信するストリーミング型が主流になってきた。活用分野は広がっており、B2C(企業対個人)だけでなくB2B(企業間)の分野でも、トレーニングや記録など、さまざまな用途で使われている。
動画配信サービスでは、VOD(Video on Demand)によって、好きな時に好きなコンテンツが見られる。そのビジネスモデルとしては、(1)動画配信自体を有料で展開するモデル、(2)有料サービスの一環として提供するモデル、(3)広告収入によって無料で提供するモデル、などがある(図1)。
ビジネスモデル1:ビデオ配信自体を有料で展開する
この分野の代表は、動画配信サービスのリーダーでもある米Netflixだ。2019年3月時点で、190カ国に1億3900万人の有料契約者を抱え、売上高は150億ドルを誇る、オンラインのビデオ配信に特化し、月額使用料というサブスクリプションモデルを採っているために広告がなく、契約も拘束期間がない。
Netflixは、データ活用にも積極的である。膨大な数のユーザーの視聴履歴などを収集し、そのデータを分析することで、ユーザーの好みに応じたコンテンツをリコメンデーションするだけでなく、視聴分析に基づくオリジナルの映画や番組も作成している。
オリジナルコンテンツは、Netflix自身が出資し制作に関わるだけでなく、制作には関わらないがVODへの独占配信権を持つコンテンツに投資することで、その数を急速に増やしている。その品質は、米国のテレビ番組などを対象にした「エミー賞」において、2018年のノミネート数が112を数えるなどレベルを高めている。
動画配信サービスを支えるデータ活用や配信のためのインフラへの投資も盛んだ。変化に対応した迅速な開発と安定した運用を実現するために、「Full Cycle Development」と呼ぶ、開発と運用を統合した仕組みを作り上げている。
ディズニーとアップルが新たに参入
このNetflixが先行する市場に新たに参入したのがウォルト・ディズニーとアップルだ。ディズニーは2019年3月、「Disney DELUXE」と呼ぶ独自の動画配信サービスを日本で開始した。動画配信アプリ「Disney THEATER」によって視聴できる。
ディズニーの強みは『Disney』『PIXER』『Star Wars』『MARVEL』という4ブランドのコンテンツである。Disney DELUXEでは定額制としては初めて提供されるVODコンテンツも含まれるという。競合となるNetflixに提供してきたコンテンツについては、その配信権を引き上げると言われている。
上記4ブランドに加え、戦略的な買収・投資アクションを取っている。メディア大手21世紀フォックスの事業買収や、ビデオ配信サービスHuluの完全子会社化などだ。前者では、映画スタジオや、テレビ番組部門、一部地域のスポーツ放送網、海外事業部門を手に入れた。さらに、ワーナーメディアとのサービス展開に投資するなど、映像コンテンツ業界のリーダーの座を目指する。
アップルは、「Apple TV+」というサービスを提供する。サブスクリプション型で広告のない見放題のサービスだ。コンテンツによる差別化を図るため、アップル独自の作品を準備しようとしている。他では提供されない“驚きと高い質”を持たせるとしており、制作陣にスティーブン・スピルバーグ監督などの大物をそろえた。
視聴環境としては、iPhoneやiPad、Macなどの自社製ハードウェアのほかに、他社製スマートテレビやセットトップボックス(STB)向けに「Apple TVアプリケーション」を準備する。同アプリは、映像コンテンツ管理の機能を持ち、チャンネルという形でコンテンツを登録しておくと容易に視聴できる。チャンネルには、他社の動画サービスも登録できる。