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パブリック5G普及の前にローカル5Gが立ち上がる【第26回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年10月21日

5Gならではの性能を活かせるローカル5G

 パブリック5Gの普及に時間がかかる中で、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)や自動運転、高精細画像といった5Gの性能を生かした応用を可能にする方法に「ローカル5G」がある。

 ローカル5Gは、5G技術を使った自営網であり、免許を持たない事業者であっても敷設できる。土地の所有者や利用者が場所を決め、キャリアから基地局を借りたり、必要な通信設備やSIMをキャリアやメーカーなどから調達してネットワークを構築したりすることで実現できる。

 総務省は2019年4月10日、携帯電話事業者4社への割当が決まった周波数のうち、ローカル5G用に4.5GHz帯の200MHz幅(4.6-4.8GHz)と28GHz帯の900MHz幅(28.2-29.1GHz)の使用許可を発表した。これによって国内でもローカル5Gの構築が可能になった。

 自営網であれば、サーバーの設置場所も決められるので、ローカル5Gのネットワークに直結した場所にサーバーを設置すれば無線の性能を生かせ、5Gならではのユースケースを実現できる。

 ローカル5Gのメリットを、既に海外で使われているLTEを自営網で使うプライベートLTEの事例から見てみたい。

 プライベートLTEの強みは、大きく以下の2つがある。

強み1 :Wi-Fiと比較して電波干渉に強く、早く(帯域)、ハンドオーバーの機能が優れており、セキュリティ面でも優れる。混雑時の遅延変動も避けられる。

強み2 :LTE基地局は、Wi-Fiのアクセスポイントより通信エリアが広いため、設備の数を少なくできる。オーストラリアの事例では、Wi-Fiでは30基以上必要だった設備が、LTEへの切り替えにより4基になったという。

 こうした強みによりプライベートLTEでは、通信ケーブルを無線に変えることで、その設置や工場のラインを柔軟に変更できるようになる。そのため「Industry4.0」のインフラとして活用され、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の導入を加速させている。さらに、鉱山などにおけるトラックや重機の遠隔操作や監視カメラ、地下鉄の運行監視やホームのモニタリングなど、さまざまな分野で活用されている。

 ローカル5Gは、これらの強みをさらに強化し、高速・低遅延を実現することによって、ロボットやAGV(無人搬送車)をIoT化し、データの収集や制御を可能にする。米Harbor Researchは、ローカル5Gが産業用イーサネットを置き換え、1000万サイトを越える基地局が新設されると予測している。これが実現すればパブリック5Gの基地局数を大きく上回ることとなる。

 事実、独Audiがローカル5Gの試験導入によって成果を上げていると報告されている。他の自動車メーカーやユーティリティー、ガス、オイル、化学工場、港湾設備関連の企業も興味を持っているという。中国でも、AR/VR、自動運転、遠隔操作、自動車の隊列走行などのユースケースが始まり、「中国製造2025」のインフラとして期待されている。

 日本でも、ローカル5Gの実証実験が始まる。住友商事が、総務省から実験用の電波免許を取得し、CATV事業者が持つ光ファイバーのケーブル網に接続する形で5G基地局を設置する。この基地局は、半径数百メートルの範囲に電波を飛ばせ、集合住宅などへ回線を敷設することなく、ビデオ視聴やインターネット利用が可能な「5G to the Home」を実現できる。

無線インフラとしての5Gも広がる

 ローカル5Gだけでなく、5Gを無線として使う応用も可能だ。V2X(Vehicle to Everything)と呼ばれる、車を中心としたコミュニケーションで使われる。既に4.5GHz帯の5Gで走行する3台のトラックの車両間通信を使い、位置情報や速度情報の共有によって協調型での車間距離の維持制御に成功している。

 中国では、大手バスメーカー宇通集団による「5Gスマート路線バスプロジェクト」と呼ぶレベル4の自動運転プロジェクトにおいて、V2Xによる信号の認識や遠隔監視に利用されている。

 パブリック5Gもスマホの応用やIoT活用を広げていくが、ローカル5Gによる企業や社会での応用、無線としての5G活用の高度化が広がっていくことで、5Gは社会の重要なインフラになっていく。中国では「LTEは生活を変えた。5Gは社会を変える」というキャッチコピーが広がりつつあるという。

 こうしたパブリック5Gとプライベート5Gの動向を見ながら、自社の製品/サービスや仕事の仕組みへの応用を検討する必要がある。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。