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パブリック5G普及の前にローカル5Gが立ち上がる【第26回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2019年10月21日

「ラグビーワールドカップ2019」の試合会場などでNTTドコモがプレサービスを開始するなど、キャリアによる5Gのサービスが始まった。海外では既に商用サービスがスタートし、5Gで想定されていたユースケースの実用に向けたトライアルが進んでいる(関連記事『5Gがもたらすデジタルトランスフォーメーション【第10回】』)。今回は、5Gの現状やユースケースの状況を基に、5Gの今後を考えてみたい。

 5Gの商用サービスは、海外では既にスタートし5Gスマホも発売されている。米国では、Verizonが2018年10月に独自仕様で限定サービスを開始し、2019年4月には5G商用サービスを始めている。AT&Tは2018年12月にホットスポットでの5G限定サービスを開始。Sprintは2019年5月に5G商用サービスを開始し全米の主要都市で2100平方マイルをカバーしている。

 ヨーロッパやアジアでもサービスは始まっている。韓国では、モバイル3社によって既に26万人の加入者がいる。中国では、インフラとしての整備に力が入っており、2019年度中に10万局の基地局設置を目標にする。5Gの性能を生かした、さまざまなユースケースのトライアルも始まっている。

 5Gは、図1に示すように、10ギガビット/秒を越える高速・大容量、1ミリ秒以下の低遅延、同時接続端末の増加を狙いとして開発された。このような性能も、実際の使い方や使う環境によっては生かし切れない。5Gに関しては過度の期待が先行している。現状を把握し着実に活用を進めていかなければ、5Gへの失望を招くことになる。

図1:5Gが目指しているゴール

 まずは進捗を見ていこう。

(1)5Gの機能は、いつ、どこで使えるか?

機能面の進捗

 実際にサービスを開始したサービスは、3GPP(Third Generation Partnership Project)が発表した標準の「リリース15」に基づいている。「Massive MIMO」と呼ぶ新しいアンテナ技術や、伝送フレームやチャネル構成で可能になった高周波数による広帯域伝送、高信頼性・低遅延を実現する通信技術を実装する。

 ただし制御部分は、LTE(Long Term Evolution)またはLTEアドバンスドの機能拡張や高機能化によって対応しており、5Gで期待されている機能がすべて実現されるわけではない。3GPP「リリース16」以降の機能を搭載した基地局ネットワークが構築されて初めて5Gのフル機能が実現できる。

場所のカバレージ

 国内キャリアは5Gの申請時に基地局設置数を5年間で、ドコモは約1万3000、KDDIは約4万3000、楽天モバイルは約2万4000と提出していた。この予定をソフトバンクは当初計画より2年前倒しで、全国整備を終える方針を発表。一方で楽天モバイルは、都市部に密度の高い基地局設置を計画しているが、その設置が遅れており、2019年10月の商用スタートを2020年春に延期し、限定した無料トライアルに切り替えた。

 このように5Gは、キャリアによる基地局の設置状況の進ちょくに沿って、限定された場所から徐々に広がって行く。

(2)通信スピードは速いのか

 スマホのWebアクセス、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、ビデオの視聴などでは、クラウド上のサーバーとの通信が必要になる。そのため速度や遅延は、スマホとサーバー間のネットワークのスピードや込み具合(輻輳)に依存する。結果、モバイル部分を高速化しても、インターネットにボトルネックがある場合は、そのスピードは生かせない。

 Sprintの事例を見てみると、同社はアップストリームもダウンストリームも5Gで通信する方式を採っているが、通信速度の測定ツール「SPEEDTEST」によって実測された平均ダウンロード速度は203.8メガビット/秒と報告されている。このスピードもネットワークの輻輳によって悪化することが考えられる。

 インターネットのボトルネックを回避するためには、クラウドやネットワークの選択が重要になる。中でも、端末に近いエッジに処理用サーバーを近づけるエッジコンピューティングの活用が広がって行く。

 「MEC(Mobile Edge Computing)」サーバーと呼ばれる機器が、ネットワークやコンピューターの機器メーカーから発表されており、キャリアも、自社のモバイルネットワークでのサービス提供に向けてMECサーバーの展開を考えている。楽天は、全国に4000以上のMECサーバーを設置し、高速処理を実現すると発表した。

 スタート時点では、機能や基地局のカバレージも使えないところが多い。つまりキャリアによる5Gサービス(パブリック5G)は当初は、限定された場所や使い方でしか、その期待された性能を実現できない。

 5Gの本格普及は2023年ごろと考えられている。IDCの調査でも2023年時点で、5G対応電話の出荷数は870万台、5Gを利用可能な通信サービスの契約数は 3300万回線で、それぞれ市場の28.3%、13.5%に留まる。