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Fintechで変貌する金融業界にみるデジタルのインパクト【第29回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年2月17日

デジタルによる変化が一層進むなか、大きな変化が起きているのが金融分野だ。暗号通貨による通貨自身のデジタル化、通貨の使用目的である、さまざまな仕事や生活におけるビジネスモデルの変化、モバイルやAI(人工知能)などのテクノロジーによる変化、さらに、これらと関連するデータ活用の変化などが起こっている。今回は金融業界の変化を基にデジタルトランスフォーメーション(DX)のインパクトを考えてみたい。

 金融業界へのデジタル化の波は、既存の仕組みや仕事そのものを変え、新規のビジネスプレイヤーが参入するなど破壊的変革を起こしている。そのインパクトは、図1に示すような大きな影響を与えている。

図1:Fintechによる金融業界へのインパクト

インパクト1:大規模な人員、店舗やATM(現金自動預払機)の削減

 みずほファイナンシャルグループ(以下、みずほ)は、1万9000人の人員削減を、三井住友ファイナンシャルグループ(同SMBC)は5000人弱相当の業務量削減を、それぞれ発表した。店舗の減少や統合も進む。店舗数は、日本ではこの5年で10%弱の減少、米国では20%弱、欧州の主要国では15%、それぞれ減少している。

 このように、従来の現金、書類、そして人に依存していたビジネスプロセスが、スマートフォンやWebを窓口としたデジタルベースのビジネスモデルによって、大きな変革に追い込まれている。現金や書類中心の処理では、それらを処理する人や窓口としての店舗が金融機関の強みだった。だが、デジタル化の浸透により稼働率の低い店舗やATMは負担に変わり、人員削減や店舗の統廃合、ATMの相互利用が必要になった。

 この変化の背景には、デジタル化に対応するために金融機関自らが、RPA(Robotics Process Automation)やAIなどのテクノロジーによって効率化や生産性向上を進めていることがある。だが、より影響の大きな動きは、顧客がキャッシュレスを選び、スマホを“窓口”として、迅速性や利便性、低コストなどの理由から選択することになったことだ。つまり顧客の意識や価値の変化である。

 満足度が高い顧客価値を提供するビジネスモデルを実現し、競合に対抗できなければビジネスを失っていく。すでに小売業界では、EC(Electric Commerce:電子商取引)の浸透によって、購買意識や選択肢に関する顧客価値が変わり、競合が変わった。顧客価値を基に、ビジネスモデルやビジネスフロー、新テクノロジーの活用を検討していく必要がある。

インパクト2:人材のミスマッチ

 テクノロジーによる変革は、必要とされる人材も変えていく。ドラスティックな例を米ゴールドマン・サックス社(GS)に見ることができる。GSは約20年間で、600人のトレーダーを2人に削減した。AIをはじめとするテクノロジーによって引き起こされた変化だ。システムによる自動化でトレーディング部門の人員を削減し、システム強化のためにコンピュータ技術者200人を追加した。

 このようにDXを進めると人材のミスマッチが生じてくる。それは、ビジネスモデルや仕事の仕方を変えるためのテクノロジーやビジネスモデルの開発・運用に携わる人材だけではない。顧客窓口になる部門など関連部門が新しい仕組みに対応するための変化を求められ、スキルも変わる必要がある。人材教育や採用方法の見直しや、M&A(企業による統合と買収)による人材獲得の検討は危急の課題である。