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COVID-19による経済危機後に備えたデジタル戦略が重要に【第31回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年4月20日

 折しも、5Gの商用サービスが開始され、「Cloud as Default」という言葉に代表されるように政府のクラウド活用が進み出している。テクノロジーの進化とそれらを活用したデジタル化による市場の破壊的変革と、企業の競争環境の変化は待ったなしで進んでいるのである。

 まず5Gの商用サービスは、NTTドコモが2020年3月25日から、auは3月26日から、ソフトバンクが3月27日から、それぞれスタートした。料金は4Gより高いため、上昇した価格差を上回る価値を提供できるかどうかが5Gの活用拡大のスピードを決める。

 5G本来の機能がフルに使えるようになるのは2023年とされている。パブリックサービスとしての5Gは、社会インフラ変革を期待されている。経済効果は2025年に100兆円規模になり、さらに10年後の2035年には1200兆円規模になると言われている。

 これに対し、工場などの自営ネットワークの変革で期待されているのがローカル5Gだ。参入業者も増えている。高速で低遅延なネットワークを実現することによって、無線でカバーできる範囲が増え、機器の設置や使う場所の自由度が増す。このような5G/ローカル5Gを含めたネットワークの可能性とビジネス変革への活用検討は不可欠だ。

Cloud as Defaultで日本政府がAWSを共通基盤に採用

 一方、クラウドに関しては、政府が人事・給与、文書管理などの各省共通基盤システムのクラウドベンダーとしてAWS(Amazon Web Services)を選択したことが大きなニュースになった。政府は今、Cloud as Defaultとしてシステム基盤をクラウド化することを標準にしている。

 今回の選択では、NTTデータが開発・運用を担当していた「霞が関クラウド」をAWSのIaaS(Infrastructure as a Service)へ移行する。データ送受の常時監視、アクセスログの取得、脆弱性対策の実施などの運用やセキュリティ対策の強さが決め手になった。

 日本政府のAWS採用のように、メガクラウドがグローバルにシェアを伸ばしている。先端技術領域の調査会社である米Synergy Research Groupによれば、2019年第4四半期のクラウドシェアは、AWSが33%、Microsoft Azureが18%と他の競合を大きく引き離している。伸びはAWSが前年比35%、Azureは同64%である。競争力のあるメガクラウドがさらに顧客を増やし、投資によってさらに競争力が増すというスパイラルに入っている。

 この結果、撤退を選択する企業も現れている。その一社がNTTコミュニケーションズだ。パブリッククラウドサービス「Cloudn」の提供を2020年12月31日で終了すると発表している。

 AWSは『AWSのクラウドが選ばれる10の理由』を揚げている(図1)。

図1:AWSが掲げる『AWSのクラウドが選ばれる10の理由』

 図1を見ると、「初期費用ゼロ」「低価格」「運用負荷の軽減」「サイジングからの解放」「高いセキュリティ」といった項目がインフラとしての価値になっている。必要な時に必要な量だけを安価に使え、セキュリティや運用のツールも完備し、拡張性と競争力ある安定したプラットフォームを提供する。

 ビジネス変革に向けた価値としては「ビジネス機会を逃さない俊敏性」「最先端の技術をいつでも活用」などが有効である。必要なリソースをすぐに使えるだけでなく、「DARQ: Distributed Ledger、AI、Extended Reality、Quantum Computing」と呼ばれる最先端テクノロジーを使うこともできる。

 DARQにあっては、Distributed Ledger(分散台帳)は三菱UFJ銀行の決済システムやトヨタ自動車が進めるスマートシティなどのインフラに使われようとしている。AIの活用が広がっているのは言うまでもない。Extended Reality(拡張現実)は5Gの活用によって放送やエンターテイメントでの活用が期待される。

 またQuantum Computingは、「量子超越性」の実証がされ独VWが都市交通サービスにおける車両の移動ルートの最適化に、Googleは材料開発への応用に、Goldman Sachsは金融のリスク管理などへの応用を試行している。これらの最先端テクノロジーもクラウドを使うことによって容易にトライアルが可能になる。

先進テクノロジー活用の観点からもクラウドを検討する

 クラウド活用は今後も広がっていく。2020年1月に金融グループの米Goldman Sachsが国際企業に対して実施した「IT Spending Survey」では、クラウド上で処理されるIT業務の比率は現在の23%が3年後には43%になり、市場規模は1兆ドル規模に達するという結果が出ている。

 上述したDARQのようなテクノロジーやアプリケーション、ツールによってクラウドを選択する動きも広がっている。メインクラウドとしてはAWSやAzureを使い、機能やツールを使うためにGCP(Google Cloud Platform)など他のクラウドを使うというマルチクラウド化も広がっている。ビジネスの迅速化、変革性、先進テクノロジーの活用といった観点からのクラウド検討も必要である。

 今後、デジタル化が加速度的に進み、あらゆるものがコネクティッド(ネットワークにつながっている)になり、広くデータの活用が進む。それによって、さまざまな分野において破壊的変革が加速していく。それらを先取りするためには、テクノロジーや、それによって引き起こされる市場の動きを把握し、それらによる変革を準備することが重要だ。

 とはいえ、新型コロナウイルスによるパンデミックの終息の時期は、まだわからない。経済危機を乗り切ることが最優先であるが、並行してDXの継続によるビジネス変革や強化の継続が必要である。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。