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COVID-19による経済危機後に備えたデジタル戦略が重要に【第31回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年4月20日

新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)によって、生活や企業にインパクトが広がっている。企業の業績にも大きな影響が表れ、株価が暴落するなどの経済危機が訪れている。一方で5Gなど新たなデジタル環境がスタートするなどデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みも待ったなしだ。パンデミックのような状況下では、経営は守りに集中しがちだ。だが、こんな状況下だからこそ、守りと同時に将来を見据えた投資を続けること必要がある。過去の世界的経済危機を振り返りながら、テクノロジーへの取り組みを考えてみたい。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の広がりにより、ロックアウトによる人の移動制限が始まり、それに伴って消費の減少やビジネス活動の停止、サプライチェーンへの影響など世界の経済活動に危機が訪れている。

 2000年以降に起きた世界的経済危機は、今回が3回目である。2008年に起きたリーマン・ブラザースの経営破綻に端を発した世界規模の金融危機では、世界の株価は57%下落した。その前の危機が、2001年に起きたインターネットやITへの過剰な期待が引き起こしたITバブル(dotcom-bubble)の崩壊であり、世界の株価は49%下落した。

AmazonやGoogle、Ciscoはバブル期に投資し成長を続ける

 ITバブル崩壊時の状況を振り返ってみたい。1990年代後半、Windows95の東條やインターネットの普及、そのインターネットを活用したEC(Electric Commerce:電子商取引)など多くの新ビジネスの波が急激に高まった。インターネットと関連ビジネスの広がり、新ビジネスモデルの可能性に過剰な期待が集まり、多くのネットベンチャーが生まれた。

 そこにアメリカの低金利政策によって後押しされた1999年から2000年にかけてのインターネット関連投資により株価が異常な上昇を見せた。このバブルが2001年にはじけ、株価は急落。IT企業は経営的に大変な状況に陥り、多数のベンチャー企業が破綻した。

 この危機を乗り越えた米Amazon.comや米Googleなどの企業は、その後も成長を続け、現在のデジタル社会の基盤を形成した。これらの企業は、危機を乗り切るだけでなく、その機会を成長のチャンスとしてとらえ変革を続けることで今日のポジションを獲得している。たとえばAmazonは、書籍のECからスタートしたが、Amazonブランドの浸透を図り、ECの対象を他の商品に広げていくことによって成長を続けている。

 当時、筆者は米Cisco Systemsに在席していた。同社はインターネットへの期待からITバブル時には株価時価総額世界一だった。しかし、バブル崩壊によって業績は大打撃を受け株価も急落した。

 この時、Ciscoは経費削減や大規模なリストラによる人員削減などの対策と同時に「Breakaway」と呼ぶ戦略を採った。Breakaway戦略は、「危機は他社と差別化をし引き離すチャンスでもある」という考えのもとに、積極的な戦略投資とその実行を行うというものである。

 同社の当時のコアビジネスは、ルーターやスイッチだった。Breakaway戦略では、新しいコアビジネス候補として、セキュリティやIP電話、光ネットワーク、Wi-Fi機器、ホームネットワークなどの分野を選び、それぞれを10億ドル規模のビジネスにするという目標を掲げ積極的に投資した。この戦略が奏功し、これら投資を行った多くの分野でリーダーとしての地位を確立し、競合他社との差を広げることに成功した。

 今回の新型コロナウイルス禍といった大きな経済危機の時に、どのような戦略を立て、どのように行動するかによって、その後の会社の方向性は大きく変わる。危機をピンチとしてとらえるだけでなく、チャンスとしてとらえ、企業変革することも必要である。

日本はデジタル化には改善の余地がある

 一方で、デジタルによる市場の破壊的変革は続いている。だが現状、日本はデジタル化に関して、まだまだ改善の余地がある。OECD(経済協力開発機構)によれば、時間当たりの労働生産性はアメリカの6割に過ぎず、デジタル化もOECDの36カ国中21位と遅れている。

 デジタルトランスフォーメーション(DX)に関しても、既存のプロセスや業務の自動化にとどまり、 抜本的なビジネスや製品、ビジネスプロセスの改革まで検討しているところは多くない。デジタルによる変革を起こす必要がある。

 新型コロナウイルス対策としてのリモートワークを例にとると、ビデオ会議や家庭からのネットワークアクセス、セキュリティなどのインフラを整備しても既存のやり方で仕事や会議を遠隔で実施するだけでは不十分だ。情報共有の仕組みや会議のあり方、稟議による承認や決済の仕組みまで変革することで初めて生産性を大きく高められる。

 ビジネス自身を変革し、価値を創造するためには、テクノロジーの活用が重要になる。テクノロジーの動向を把握し、戦略を迅速に実行に移すことが必要だ。