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そのテレワークはデジタルトランスフォーメーション(DX)につながっているか【第32回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年5月18日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止のための外出自粛が続くなか、テレワークの活用が広がりを見せている。ただ前回述べたように、デジタルトランスフォーメーション(DX)といいながらも、既存のプロセスや業務の自動化にとどまり、 抜本的なビジネスや製品、ビジネスプロセスの改革までが検討されるケースは多くない。今回は、テレワークを例に、DXとして取り組む際のアプローチについて考えてみたい。

 一気に導入速度が高まっているテレワークの実施も、外出自粛という目前の課題解決型で進めるのか、デジタルトランスフォーメーション(DX)として生産性向上や働き方改革として進めるのかでは、その結果は大きく異なる。

 実際、テレワークの導入を目的にPCなどのデバイスやネットワーク、Web会議システムなどのテクノロジーは導入したものの、書類をリモートで見られなかったり決済のための捺印が必要だったり、会社のPCでなければ処理ができなかったりで「出社が必要」「仕事が止まる」「処理スピードが大きく落ちる」などが問題になっている。

テレワークの実施が目的ではない

 DXとして考えるとき、目的は「テレワークの実施」ではない。「生産性や業務効率の向上、働き改革」である。この目的のための「あるべき姿(To beモデル)」は、会社の内外でシームレスに仕事ができる環境を構築し、最適な環境で仕事ができるようにすることだ。

 自分のデスクを離れても業務が継続できれば、コミュニケーションの中断を防ぎ、効率的なスケジュールで仕事を進められるようになる。期待できるメリットを図1に挙げる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような災害時の対策だけでなく、通勤時間の削減、職場スペースの削減、ワークライフバランスや多様な働き方を可能にする。

図1:テレワーク活用で期待できるメリット

 DXとして進めるには、テクノロジーの活用と同時に、仕事の仕組みやプロセスの変革を考えなければならない。以下に挙げるテレワークの課題を“ニーズ”と考え、改革につなげることが、より大きな効果に結び付く。

課題1:テレワークで、できる業務がない

 できる業務を探すのではなく、テレワークができるように業務を見直す必要がある。紙文化/ハンコ文化が大きな壁になっているが、情報のデジタル化と共有の仕組みを作り、ワークフローや電子帳票・決済システムによる仕事の処理や、承認・決済のペーパーレス化を検討しなければならない。

 電子申請や電子承認・決済を検討する際は、承認権限の見直しや、権限移譲の検討も考えるべきだ。開発や経理など、あらゆる業務に関する社内アプリケーションに対しテレワーク環境からもアクセス可能にする必要もある。

 もちろん、デジタル化できない他社や役所との書類処理や、電話対応、製造や物流、郵便などのモノの取り扱い、顧客対応など、人がいなければならない仕事も残る。

 これらも、GMOインターネットグループなどのように、取引先との契約を電子契約のみにし、各種サービスにおける手続きから印鑑を完全撤廃するような動きや、AI(人工知能)やロボット、自動化技術によって、デジタル化や自動化できる分野を増やすなど変化が起こっている。可能な対象からスタートし、定期的に対象を見直すべきである。

課題2:コミュニケーションが希薄化する

 テレワークでは実際に顔を合わせる機会は減るが、社内SNS(Social Networking Service)、チャット、ビデオ会議などにより効果的なコミュニケーションは可能だ。

 コミュニケーションの標準化を図り、ツールを活用することによって、コミュニケーションを変革できる。仕事の流れの中にコミュニケーションツールを位置づけ、情報共有や報告、議論が、実際の打ち合わせや会議と同じように行えることを目指すべきである。

 ビデオ会議も急送に普及している。代表的なツールである「Zoom」(米ズーム・ビデオ・コミュニケーション製)は、1日当たりの利用者数が2019年12月時点の約1000万人から2020年4月には3億人にまで増加した。ビデオ会議を効果的に使用するためには、目的を明確化や出席者の見直し、資料の簡略化などの会議改革も必要になる。

課題3:勤務状況の把握が難しい

 ワークライフバランスや生産性の向上を目的にテレワークを本格活用するためには、勤務の概念も考え直す必要がある。単に時間だけを管理をしても、管理者の目の届かないところでは限界がある。時間で管理するのではなく、各人の役割と目標を明確にしたうえで、その進捗を管理するような形態にすることが望ましい。

 そこでもツールを活用し“密な”コミュニケーションを継続することが必須である。同時に、個人の業務内容や目標、期待される成果を見直し、勤務や時間の自由度を高めるべきである。

課題4:仕事の評価が難しい

 各人の責任と目標、期待される成果が明確になれば、その成果に対して評価ができる。評価に関しては、HRtech(Human Resource Technology)の活用も期待できる。

 HRtechのカバー分野は、人事業務の自動化、人事データベース、人事管理システムへの適用などにとどまらず、パフォーマンス管理や、仕事の意義の理解とコミットメントを見る「Engagement」管理、採用支援へと広がっている。モチベーション管理や健康状態の把握も可能である。米IBMは、従業員のパフォーマンス評価にAIを応用し賃金を決める仕組みを使っている。