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COVID-19パンデミックによって変わるデジタル活用と、その価値【第33回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年6月22日

日本では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する緊急事態宣言が2020年5月25日に解除された。だが世界的にはCOVID-19によるパンデミック(世界的大流行)が続いている。パンデミックの最前線で戦っている医療関係者の方々へ敬意と感謝を表したい。今回は、対COVID-19として活用されているデジタルテクノロジーの事例とともに「Post COVID-19」を考えてみたい。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)との戦いにおいては、根源となる治療薬やワクチンの開発から、治療の支援、人と人の接触削減などに、さまざまなデジタルテクノロジーが活用されている。AI(Artificial Intelligence:人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、ロボット、ドローン、クラウドなどなどだ。

COVID-19が医療分野のデジタル化を加速

 COVID-19の最大の課題は、2020年6月時点では、その治療方法が確立されていないことにある。治療方法を求め、あるいは、そのための時間を生み出すための感染拡大の防止策などに、AIを中心とした種々のデジタルテクノロジーが、これまでにない速度で投入されている。主要な領域での取り組みを見てみる。

ワクチンや治療薬の開発

 COVID-19のワクチンや治療薬の開発には、AIやHPC(High Performance Computing)が活用されている。「CDDD(Computational Driven Drug Design)」や「AIDDD(AI driven Drug Design)」と呼ばれるシミュレーションやモデリング技術によって、創薬研究の加速を図っている。

 たとえば米国では、ホワイトハウスなどが中心になって進める「The Covid-19 High Performance Computing Consortium」がある。IBMをはじめAmazon.com、Google、Microsoftなどの大手ITテクノロジー企業が、バイオテクノロジーやエピデミック、分子生物学などの専門家と協業し、AI/HPCを活用したCOVID-19研究を進めている。

 米国ではほかにもプロジェクトが進行している。その中からは、AIやHPCを活用しCOVID-19の治療に効果があると思われる薬剤化合物を発見することで創薬期間の大幅な短縮を図ったり、ウイルスがヒト細胞に感染する際に介在するスパイクタンパク質の3D(3次元)原子スケールマップを作製し、感染防止薬剤の開発に役立てたりするといった成果が生まれつつある。

 同様の動きは、世界中で進行している。中国では、Alibabaがクラウドを活用したウイルスのゲノム解析に取り組んでいることを発表している。日本でも、NECが、COVID-19の予防ワクチンの設計図をAIを使って作成し、それを製薬会社と協業で製造する方針を発表。富士通や亀田製菓は、米大学が主導するスパイタンパク質の構造解析から治療薬を開発に向けた分散コンピューティング環境に参加することを発表している。

医療現場での治療支援

 ワクチンや治療薬の開発と並行して重要なのが、医療現場の崩壊を防ぐための支援策の確立だ。そこには、感染の疑いがある人の発見から、検査、診断、治療までの各段階において、さまざまなテクノロジーが活用されている。

 感染者の疑いがある人の発見には、非接触型の検温が広く使われている。身体から放出される赤外線量をセンサーで受け、体温をコンピューターによって計算するサーモグラフィー機能である。施設などの入口で検査するケースが多い。中国やドバイでは、サーモグラフィー機能を組み込んだヘルメットを警官など着用し、街中名ででも感染の疑いがある人の発見に使っている。

 より高度な検知機能を実現するために、心拍数、呼吸数、血圧などをモニターできるレーザーの開発や、AI/IoTを活用した画像認識などの技術の応用も進む。

 COVID-19の検査ではPCR(Polymerase Chain Reaction)検査が使われている。人のDNAを増幅しCOVID-19の遺伝子を検出する。ここにAIやクラウドを活用することで、検査の精度と迅速性を高める取り組みが走っている。

 診断分野では、オンライン診断の活用が広がる。病院での感染リスクを避けるために、Web会議などを使ったビデオ通話や音声によって遠隔地から診療する。

 日本では今回、期間限定ながら、遠隔診療への保険適用が、これまでの再診に加え初診にも適用されるようになり、活用が加速した。さまざまなセンサー技術を使い、自宅で測定した体温や、酸素飽和度、血圧、血糖などのデータを共有できる仕組みも提供されている。

 米国では、クラウドとBot(ボット)を使った自己診断の仕組みも提供されている。米国疫病予防管理センター(CDC)が2020年3月に開始した「Healthcare Bot」は、利用者の病状を素早く評価し、医者に行くべきか自宅にとどまるべきかをアドバイスするBotだ。クラウドサービス「Micosoft Azure」上で動作する。

 病院での肺炎症状の診断にもAIが活用されている。病院やクリニックが、感染疑いのある患者のCT(Computed Tomography)画像をクラウドにアップロードすれば、AI画像解析技術によりCOVID-19感染の有無や進行度合いなどを判断し病院にアドバイスする。

 CTスキャンでは、その画像から症状を正しく見極め適切な対処を施さなければならない。上記の仕組みでは、診断知識をAIが学習しクラウド上に蓄積することで、精度の高い診断を可能にしている。

 中国AlibabaのAIクラウドを使った例では、通常の肺炎と新型コロナ肺炎の違いや、肺炎である確率を診断し、病変であれば罹患した肺の体積を計算するなどで対処方法を支援する。

 そのために、COVID-19に感染した5000件のCTスキャンデータをディープラーニングによって学習したアルゴリズムを使っている。これをクラウド上で実行することで、データ転送が15~16秒、分析は3~4秒で終わる。正確性は96%で、人の60倍のスピードで診断ができるという。