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5Gが変える社会、中国・深圳ではユースケースが続々と【第37回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年10月19日

NTTがNTTドコモの完全子会社化を発表した。目的の1つとして、5G(第5世代移動体通信)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)といった分野での成長を挙げる。今回は、NTTの判断の背景になった5Gと、その応用を中心にネットワークの進化を考えてみたい。

 コロナ禍によって、ネットワークの活用が増えている。総務省の発表では、2020年5月度のブロードバンド契約者1契約当たりのダウンロードは460.2キロビット/秒と前年比で54.0%増加した。

 この傾向は、図1に挙げるように、アプリケーションやサービスの増加、コネクティッド製品の増加によって続き、今までの仕組みや仕事を大きく変えるデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる。

図1:ネットワーク拡大の加速要因

 今後のネットワークとその使用状況の予測を、米Cisco Systemsが発表している『Cisco Annual Internet Report(AIR)』から見てみたい。2023年の主な予測を挙げてみる。カッコ内は2018年の実績である。

  • インターネット利用者は53億人(38億人)に
  • 全世界人口の70%がモバイル接続可能になり、そのうちの10%が5G接続になる
  • インターネットに接続されるデバイス数は293億(184億)、接続されるデバイスの中でもM2M(Machine to Machine:機械間)接続は、年率(CGAR)30%で増加する
  • 固定ブロードバンドの速度は110.4メガビット/秒(45.9メガビット/秒)へ
  • 全世界では、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)、ゲーム、ビジネスに代表される2991億のモバイルアプリケーションがダウンロードされる
  • Wi-Fiのスピードは92メガビット/秒(30.3メガビット/秒)に、Wi-Fiホットスポットも6億2800万カ所と2018年の4倍になる
  • モバイルネットワークのスピードは43.9メガビット/秒(13.2メガビット/秒)に、5Gのスピードは575メガビット/秒を実現する

 このように、ネットワークテクノロジーとインフラの強化によって、ネットワークは高速化し、モバイルネットワークやWi-Fiホットスポットによって、ネットワーク接続はあらゆる場所で可能になる。このような環境によって、ネットワークの価値は、単なる接続から、それがどのような応用を可能にするかに移っていく。

 高速化や低遅延化は、高解像度や迅速な応答を必要とする新しい応用を可能にする。Wi-Fiやモバイルによる無線化は、デバイスや接続の自由度を高め、コネクティッド社会を支え、ビジネス、生活、教育、娯楽のすべてを変えていく。

 その結果、コネクティッドな製品やデバイス、IoTやM2Mなどの応用、アプリケーションの急速な増大につながっていく。Cisco AIRの予測する数字は、その変化を物語っている。

日本のキャリアが提供する5G展開が低調な理由

 今後のネットワーク動向の中で最も大きな影響があるのが5Gだ。日本では、キャリアが提供する5G展開が低調だが、その理由はいくつかある。

 大きな理由の1つは、展開が始まっている5Gの多くが、コスト面と早期設置の観点から「NSA(Non Stand Alone)」と呼ばれる、4Gの設備を活用して5Gを展開する方式を採っていることだ。

 NSA方式では、「SA(Stand Alone)」方式による本来の5Gが目指す、“高速・大容量、低遅延、接続端末数の増加”といったメリットを実現できない。

 周波数も4Gに使っていた周波数帯を転用するケースが多く、高速化を妨げる。実際、英Opensignalが2020年6月に発表した米国の5Gに関するレポートによれば、米Verizonが高周波数電波(ミリ波)を使って提供する5Gの下り実行速度は494.7メガビット/秒と、4Gで使っていた周波数を使う他社5Gの10倍近い速度を出している。

 ただ高速・大容量を実現する高周波数(ミリ波)は基地局からの電波が届きにくい。使える場所を増やすには投資が必要であることが、使用場所の限定につながっている。

 これらの要因によって、すでに始まっている5Gサービスの多くを占めるNSA方式では、速度・容量のメリットを実現できない。一方のSA方式も使える場所が限定される。加えて5G対応スマートフォンを入手しても、5G本来のメリットを生かせるアプリケーションがほとんどない状況では、利用者が価値を感じられない。

 それでも5Gは「社会を変える」と言われており、中国に代表されるように5Gをインフラ変革の核に据える国や企業も多い。図2に5Gの価値を挙げる。

図2:5Gが提供する価値