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5Gが変える社会、中国・深圳ではユースケースが続々と【第37回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年10月19日

5GではIoTやコネクティッド製品からの使用が増大

 5Gと4Gまでとの大きな違いは、4Gまでが主にスマホと、その上のアプリケーションが使用目的だったのに対し、5Gでは、インフラとしての活用、IoTやコネクティッド製品からの使用が増大することだ。

 インフラとしては、有線ネットワーク以上の性能と設置の柔軟性によって、既存のアクセスネットワークを置き換えていく。さらに、高速・大容量、低遅延を生かしたネットワークの新しい応用も可能にする。

 このような5G活用の広がりを成長機会にするためには、モバイル、無線、有線を合わせて最適なネットワークの提供が必要になる。NTTがNTTドコモ完全子会社化によって、このチャンスを生かすことによって成長につながる。

 既存ネットワークの置き換えは、使用範囲を限定した5Gの使い方である「ローカル5G」に見ることができる。第34回『個別最適から全体最適を目指すデータドリブンな製造改革』』で取り上げたように、製造業における製造機器やロボット、AGV、ドローンなどの制御や自動運転への活用例が出始めている。

 また住友商事が進めるCATV網に接続した5Gでは、無線基地局から半径数百メートルの範囲で集合住宅にブロードバンド環境を提供するといった活用もある。

 中国 天津の事例では、港湾のコンテナクレーンの遠隔操作に使用していた光ファイバーを5Gに置き換えた例が紹介されている。ネットワーク遅延は60ミリ秒が20ミリ秒に短縮され、操作性や設置の自由度の向上が報告されている。

 このように5Gは、有線と比較すると、同等以上の品質を実現し、設置の容易性や自由度が高いという特徴を持つ。Wi-Fiと比べても、速度、遅延時間、品質やセキュリティに優れ、設置する基地局も少なくて済むというメリットがある。

深圳ではSA方式基地局5万局弱が全市をカバー

 次に、5Gの機能を生かした新しい使い方を、中国で進展している例を基に見てみたい。中国では、国の支援によって、SA方式の5G基地局が設置されている。2020年6月時点で、中国全土で25万基の基地局設置が完了している。

 特にHuaweiやZTEの本社がある深圳では、SA方式基地局の設置が5万局近くに達し、全市をカバーする。さらに5G推進を加速するために、「IMT-2020推進組」という専門家や業界を巻き込んだ体制を作り、情報共有やユースケースのコンテストを開催してもいる。

 深圳にはモバイルキャリアが3社あるが、そのうちの1社である深圳電信は、過去2年間に市の5G開発計画に総額約380億円を投資し、すでに100万人の5Gユーザーを獲得している。このインフラを基に、さまざまなユースケースが生まれている。

 発表されているユースケースを見てみると、有線ブロードバンドを置き換えるWBB(Wireless Broadband)をはじめ、製造や医療、交通、公共など、まさしくあらゆる業種・仕事・生活に5Gの利用が及ぼうとしており、DXへの可能性が感じられる。そのうちのいくつかを見てみよう。

製造分野の5Gユースケース

 生産現場の機器をコネクティッドにし、製造の自動化や、自動搬送、品質検査、パトロールロボット、検査やトレーニングへのAR(Augmented Reality:拡張現実)などに活用されている。生産のさまざまなデータや危機状況をリアルタイムに把握する監視・管理にも利用されている。

医療分野の5Gユースケース

 スマート救急、スマート手術室、スマート病室、スマート管理など病院全体をスマート化し、遠隔医療やIT病院など、ネットワークを利用した診察プラットフォームを作り上げようとしている。

 スマート救急では、救急車での移送中に、患者の病状データと監視カメラの映像、および現場の環境と応急処置の状況などを病院に送る。それを受けた病院のスタッフは手術の準備を始め、患者が到着した瞬間に手術を始められるようにする。

 遠隔診療や、エコー装置を使った遠隔診断、ARやMR(Mixed Reality:複合現実)を利用した胆石の遠隔施術にも成功している。

交通・空港・入国審査での5Gユースケース

 スマートバスでは、交通信号などと車両が通信して得た道路情報によって運転をサポートする。顧客に対しては、顔認証によって、支払いや案内などが提供される。

 空港や入国審査では、幅広い分野で検討が進んでいる。VR(Virtual Reality:仮想現実)を組み合わせた高解像度の旅客案内、ライブストリーミングによる飛行機の出発案内、自動ID検証や顔認証などを使ったインテリジェントなセキュリティチェック、ボディチェックや手荷物検査、乗客と荷物の照合などなどだ。

 5Gにつながる対象も、ドローンやスマートロボット、自動運転車、スマート検診、スマート照明、手荷物コンベア、X線スキャンシステムなど多岐にわたる。

 たとえば不審旅客のチェックでは、出入りする旅客の通関状況を示すビッグデータを活用し、リスクの高い旅客を迅速に発見し、不審な旅客が通る時には、警備担当者が身に付けるスマート眼鏡に通知することで、正確かつ効率的な取り締まりを実現するという。

公共分野の5Gユースケース

 すでに、レーダーやセンサー、高画質カメラなどを搭載したロボットによる清掃や、ごみ拾い、ごみの運搬が始まっている。スマート公園ではマナー違反監視ロボットが、マナー違反を監視しながら景観をライブ配信する。スマートパトロールロボットは、5GとAI(人工知能)を使ってマスクの未着用者や体温の高い人を発見する。

5G競争での遅れは新しい活用や変革の遅れにつながる

 これらの例からもわかるように、5Gを先進インフラとし、その上でIoTやAI、クラウドを活用したアプリケーションを使って、コネクティッドとデータドリブンの考えのもとに、自動化や効率化、インテリジェント化などのDXを進めているわけだ。

 5Gに代表される先進ネットワーク競争に遅れることは、それらをインフラとした新しい活用や変革が遅れることにつながっていく。インフラとして活用できる場所を急速に広げていくと同時に、さまざまな使い方によって利用者やユースケースを増やしていく必要がある。高い使用料金が活用のネックになることも避けなければならない。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。