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デジタル政府ランキングに見るDXの要件【第38回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2020年11月24日

日本政府が、マイナンバー制度の抜本的改革や行政手続きのオンライン化、教育・医療のオンライン化、書面・印鑑の廃止などを具体的内容として、デジタル化への投資と環境整備を進めている。各国政府のデジタル化の進捗に関しては、国連が『E-Government Survey』と呼ぶレポートを2年おきに発行している。今回は、このサーベイの評価基準やデジタル先進国と言われるエストニアの例を基に、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進の要件を考えてみたい。

 コロナ禍においては、特別定額給付金のデジタル手続きを中止する自治体があったり、コロナの感染状況を把握する「HER-SYS」や、接触アプリ「COCOA」の運用に関する問題があったり、さらには地域でのばらつき問題、医療分野での利用など、日本におけるデジタル活用の遅れが明らかになった。

 管政権下におけるデジタル化の推進においては、これらの遅れを取り戻すと同時に、先進デジタル国家として進むことを期待したい。

政府のデジタル化にはサービス化と人材、インフラが必要

 各国政府のデジタル化の進捗に関しては国連が『E-Government Survey』を発行している。最新版は2020年7月に発行されている。

 E-Government Surveyは、国連の経済社会局(DESA:Department of Economic & Social Affairs)が、各国のデジタル化進捗状況をまとめたものだ。政府サービスのオンライン化、オープンデータの提供、オンラインによる情報提供と意見収集、オンラインとオフラインのマルチチャネル化、モバイルサービスなどの状況を独自の評価基準で評価し、EGDI(E-Government Development Index)と呼ぶ総合指標で表している。

 EGDIは、オンラインサービス指標(OSI:Online Services Index)、人材指標(HCI:Human Capital Index)、通信基盤指標(TII:Telecommunications Infrastructure Index)の3つの指標の平均に基づいて算出される。

OSI :婚姻届、出生届といった、さまざまな申請や手続きのオンライン化など、行政サービスのオンラインカバレージによって算出される。サービスだけでなく、Webによる国の情報公開や、情報に対してのアクセスの容易性なども評価の対象になっている。データソースは、国連事務局の独自調査と、各国に対するオンラインサーベイの回答である。

HCI :成人(15歳以上)の識字率、初等・中等および中等教育に在籍する就学率、一定の年齢に達した児童が、将来受けることが期待できる学校教育の年数、その国の成人人口(25歳以上)が就学した平均教育年数の4つから出される総合指標。UNESCO(国際連合教育科学文化機関)がデータソースになっている。

TII :100人当たりのインターネットユーザー数、100人当たりのモバイルユーザー数(電話のみを含む)、アクティブなモバイルブロードバンドユーザー数、100人当たりの固定ブロードバンドユーザー数という4指標の平均に基づく複合指標。WB(世界銀行)とITU(国際電気通信連合)がデータソースである。

 このようにE-Government Surveyでは、デジタル政府の進捗を、サービス化率や情報のオープン化率、人材、インフラの3つの観点から評価している。デジタル化の定着と、継続的な発展のためには、サービス化を進捗させるだけでなく、人材やインフラの活用を進めなければならないわけだ。

日本のデジタル国家ランキングは14位

 総合指標EDGIによって、各国をランキングしたものが「デジタル国家ランキング」である。表1に示す国々が、2020年のE-Government進捗のリーディング14カ国になっている。

表1:総合指標EDGIによる「デジタル国家ランキング」
国名EGDI(2020)EDGI(2018)
デンマーク0.97580.9150
韓国0.95600.9010
エストニア0.94730.8486
フィンランド0.94520.8815
オーストラリア0.94320.9053
スウェーデン0.93650.8882
英国0.93580.8999
ニュージーランド0.93390.8806
米国0.92970.8769
オランダ0.92280.8757
シンガポール0.91500.8812
アイスランド0.91010.8316
ノルウェイ0.90640.8557
日本0.89890.8783

 同ランキングにおいて日本は14位であり、前回の10位からランキングを落としている。それぞれの指標を見てみると、オンラインサービス指標が11位、情報基盤指標は6位、人材指標が14位だ。サービスのオンラインカバレージと人材に関して改善の余地がある。

 人材指標が低いのは、識字率や就学率は高いが、一度教育を卒業した後に教育を受けている人が少ないことが影響している。デジタル化を進めるためには、デジタルリテラシーの向上と、デジタル化を理解して進められる人材を増やす必要があり、そのためには、リカレント教育の機会と活用が重要なポイントになる。