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“スマート化”が求めるエッジコンピューティング【第41回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年2月15日

スマートフォンや自動運転車、スマートシティ、スマート工場、無人店舗、スマートホームなど、様々な分野で“スマート化”が進んでいる。それらの機能、操作性、性能向上を支えるのがコンピューティングパワーだ。対象が増えるほど分散化のニーズも高まり、エッジコンピューティング時代が広がっていく。今回は、これからの処理形態であるエッジコンピューティングについて考えてみたい。

 様々なスマート化を実現するコンピューターは、バラバラに存在しているわけではない。ネットワークによって接続され、クラウドと連携し、処理の分散やデータ活用によって新しい価値をもたらしている。これを実現しているのがエッジコンピューティングだ。

 米調査・コンサルティング会社のGartnerは、エッジコンピューティングをこう定義している。

「データの生成元、または、その近くでのデータ処理を容易にするソリューション」

 クラウドはセンターで実行する集中処理である。だが、より現場やユーザーに近いところ、すなわちクラウドから見て「エッジ(端)」で分散処理を実行するのがエッジコンピューターだ。ネットワーク接続機能(常時接続でなくてもよい)を持ち、クラウドと連携する形でコンピューティング機能を提供する。

 エッジコンピューティングは、次のようなメリットをもたらす。

・すべてのデータをクラウドに集めて処理するのではなく、その一部あるいは全部をデータの発生個所であるエッジコンピューターで処理することで、クラウド処理やネットワーク負荷の集中を避けられる
・インターネットやネットワーク機器による遅延を最小化できるため、高速処理と組み合わせることでリアルタイムな制御や命令が可能になる。特に5Gでは、その超低遅延、超高速を生かせ、新しいユースケースを生み出せる
・有料のクラウドからエッジ処理に移行することで処理コストを下げられる
・個別の機器や一部の機器だけに適用するアプリケーションや、発生個所でしか必要のないデータの処理をエッジコンピューティング化することにより、適用の柔軟性や、セキュリティおよびプライバシー保護に対応できる
・運用・開発をクラウドに統合し、開発したソフトウェアやAI(人工知能)/解析結果をエッジで生かすような連携が可能になる

 米調査会社CB Insightsは、エッジコンピューティングの市場規模を5000億ドル(約55兆円、110円換算)と予測している。クラウドサービスプロバイダーほか、ハードウェア/ソフトウェアメーカーに大きな影響を与えるだけでなく、デジタルトランスフォーメーション(DX)による可能性を広げ、様々な分野に大きなインパクトがある。

 同様の言葉に、米Cisco Systemsが提唱した「フォグコンピューティング」がある。クラウド機能をエッジサーバーで実行しリソースの最適化を図ることで、リアルタイムにほぼ近い時間で分散処理を可能にする形態を呼ぶ。エッジコンピューティングの1つとも考えられるが、厳密な使い分けはされていない。

5Gなどネットワークの進化が分散化を支える

 エッジコンピューティングが生まれた背景を、コンピューティングアーキテクチャーの変遷から見てみたい。

 1950年代、初期のコンピューターは、「メインフレーム」と呼ばれる集中型であり、ネットワーク接続もなく、コンピューターの設置場所でしか使えなかった。ネットワーク対応により、「タイムシェアリング」という時分割方式によって、離れた場所にある端末からも使えるようになった。端末は「ダム(dumb)端末」と呼ばれ、文字の表示と入力しかできなかった。

 その後、メインフレーム同士のネットワーク化や、高機能端末対応、銀行端末といった業務別端末の登場などにより、コンピューターの応用範囲が広がっていった。

 1970年代にPC(パーソナルコンピューター)が登場した。米Microsoftが基本ソフトウェア(OS)を独占し汎用アプリケーションが生み出された。その後、ネットワーク化されたPCとサーバーの間で処理分散を行う「クライアント/サーバー」処理が生まれた。

 1990年代のインターネットの普及によって、PC等で稼働するブラウザとサーバーによる処理が、情報の分散やデジタルコミュニケーションを加速させた。携帯電話によるインターネット活用は、1999年に発表されたNTTドコモの「iモード」や、ブラウザ搭載、カメラ付き携帯によって広がった。

 2007年に米Appleが「iPhone」を発売する。電話、アプリケーションプラットフォーム、音楽プレーヤーを一体化した「携帯できる汎用コンピューター」であるスマートフォンのブームが始まった。

 2000年代には、クラウドコンピューティングが登場した。それまでの自社や事業者のデータセンターにサーバーを置き、自社での利用やサービスの提供に活用していたモデルに対し、クラウド業者が提供する仮想サーバーを利用するモデルである。米Amazonはクラウドサービスの「AWS(Amazon Web Services)」を2006年7月に公開した。

 このようなアーキテクチャーの変遷は、テクノロジーやネットワークが進化するなかで、機能やコスト、ユーザー価値に基づいて最適なものが選択されることによって進化してきた。結果、コンピューターの役割は、数値を扱う計算処理から、文字による情報処理、さらに音声・画像・動画を扱うコミュニケーション処理、センサーデータ処理へと活用分野が広がっていった。この流れの先にエッジコンピューティングがある。