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クラウドデータセンターで進む脱炭素化への取り組み【第42回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年3月22日

クラウドトップ事業者は脱炭素化を宣言済み

使用機器の省エネ化

 データセンターで使用されている機器で、最も電力を消費しているのはICT機器だ。約50%を消費する。ICT機器の省エネ化は進んでいる。2010年から2018年の8年間で、一般的なサーバーの消費電力は約10分の1に、1テラバイトのデータを保存するのに必要なエネルギーは約9分の1に、それぞれ減少している(『Recalibrating global data center energy-use estimates』より)。こうした最新機器を使うことで省エネを進められる。

 大規模なクラウド事業者は、省エネ性能をさらに高めるためにICT機器を自社で設計している。この動きは、サーバーから始まり、ネットワーク機器、さらにはAWSのようにプロセッサーまでを自社設計するようになってきている。省エネ性能に優れた最新の高性能機を活用することで省エネ化を一層進められる。AWSでは早期の切り替えを可能にするため、ICT機器の減価償却期間も短くするといったことにも取り組んでいる。

エネルギー使用の最適化

 電源の使用状況を監視し、必要以外の電源を切断したり制限したりすることで最適化が図れる。データセンターの電力効率の指標に「PUE(Power Usage Effectiveness)」がある。下記によって計算され、PUE値が小さいほど電力効率が高いデータセンターだとされる。

  PUE = データセンター全体の消費電力量(kWh) / IT機器の消費電力量(kWh)

 ICT機器以外では、ICT機器が発する熱を冷やす冷却システムの消費電力がデータセンター全体の20~30%を占めるとされる。この冷却システムの省エネ化や使用の最適化を図ることによってPUE値を下げられる。

 対策としては、IT機器による熱の発生部分と低温の部分を分離し、高温部分を効果的に冷却する方法や、低温の外気や循環する水によって冷却する方法などがある。米Microsoftは、低温になる海底でデータセンターを運用する実験も行っている。

 適正な温度管理を基にした空調のオン/オフや空調温度を変えることで最適化する方法もある。米Googleは、AlphaGOに使われた機械学習技術を使い、冷却に必要な電力の40%の削減に成功したと発表している。

再生可能エネルギーの活用

 脱炭素化には、炭素由来エネルギーによる電力を再生可能エネルギーによる電力活用へと転換していく必要がある。クラウド事業者は急速に再生可能エネルギーへの転換を進めている。

 クラウド事業のトップ3は、AWS、Azure、Google Cloudだ。それぞれが市場に占めるシェアは32%、20%、9%である(米Synergy Research Group調べ)。各社が100%再生可能エネルギー化を目指し、転換を急速に進めている。

AWS:2024年までに再生可能エネルギーによる電力比率を80%に、2030年までに100%を達成する目標を発表している。そのために現時点で風力発電のウインドファームを3カ所、太陽光発電のソーラーファームを6カ所展開している。この中には200メガワット時を超えるウインドファーム、100メガワット時を超えるソーラーファームもある。

 さらに4カ所のウインドファームと1カ所のソーラーファームによって、年間290万メガワット時を超える再生可能エネルギーを生成できる。

Azure :Microsoftは、2025年までに自社の建物とデータセンターのエネルギー供給を100%再生可能エネルギーとすることを公約として発表した。再生可能エネルギーは購入によって補う方針で、アリゾナ州にあるデータセンターでは150メガワットの太陽光発電事業者と電力購入契約(Power Purchase Agreement)を結んでいる。

 1時間ごとのエネルギー消費量と再生可能エネルギーのマッチングを追跡するソリューションを発表し、様々な再生可能エネルギーとのダイナミックなマッチングを可能にしている。スウェーデンでのマッチング例では、オフィスビルの総エネルギー消費量の94%を風力発電と、残り6%を水力発電とマッチングさせている。

Google Cloud :Googleは2017年時点ですでに、全世界のデータセンターやオフィスで使用する電力の100%を再生可能エネルギーで調達したと発表している。大量の電力を使用するデータセンターでは、主に風力発電の電力を購入しており、太陽光発電の電力購入量も増やしている。

 オランダで2016年に運用を開始したデータセンターでは、近隣の3カ所の風力発電所と1カ所の太陽光発電所から合計で約13万キロワットの電力を調達している。

リサイクリング

 廃棄物を減らし、リサイクリングを進めることによってエネルギー消費削減に貢献できる。データセンターでは、使用しなくなったICT機器の部品を再生品として活用するなどで廃棄物を削減している。例えばAzureの新データセンターでは、廃棄物の少なくとも90%を再利用し、リサイクルを通じて他の用途に転換されることを目指すと発表している。

エネルギーを制御するものが世界をリードする可能性も

 このようにクラウド事業者は、使用機器の省エネ化や、エネルギー使用の最適化、リサイクリングを通じて脱炭素化の推進をリードしている。ここで取られている対策には、他分野で応用可能なものも多く、脱炭素化に取り組むうえでの参考にできる。

 新たな産業や地域経済活性化の可能性も生まれる。送電ロスのため、エネルギーの需要場所と供給場所は近いほうが望ましい。そのため、再生可能エネルギーの生成場所の近くにデータセンターを構築する電力の“地産地消”の実現や、直流と交流の変換ロスを避ける直流送電網などがビジネスチャンスにつながる。

 再生可能エネルギーの領域ではすでに囲い込み競争が起きている。特に風力は、安定した供給が期待できると注目されている。日本や日本企業が関係している洋上発電に関しても投資や囲い込みが広がっている。強大な需要を持ち、先行しているクラウド事業者は、再生可能エネルギー中心に変化していくエネルギーの世界でも世界をリードする可能性が出てくる。

 脱炭素化は今後、SDGs(持続可能な開発目標)が企業やサービス選択において一層重要視されるなかで、新たな競争力へとつながっていく。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。