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クラウドデータセンターで進む脱炭素化への取り組み【第42回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年3月22日

カーボーンニュートラル、脱炭素社会の議論が盛んになっている。そこでは電力需要は大きな課題だ。デジタルトランスフォーメーション(DX)によるデジタル化の加速や、EV(電気自動車)などのコネクティッド/IoT(モノのインターネット)機器の増大などは電力需要を増大する。なかでもDXを支える重要なプラットフォームであるクラウドデータセンターは膨大な電力を消費する。今回は、クラウドデータセンターでの取り組みから、脱炭素化を考えてみたい。

 地球の温度上昇を低く保つために脱炭素化の推進が叫ばれている。日本は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「2050カーボンニュートラル」を具体的な目標として掲げた。

 ICT(情報通信技術)の活用には電力が必要であり、その総電力消費量は膨大だ。巨大なデータセンターでは数十万台ものサーバーが稼働し、数百メガワットクラスの電力を消費する。2020年2月にScience誌に掲載された論文『Recalibrating global data center energy-use estimates』では、全世界のデータセンターにおける電力消費は、2018年時点で205テラワット時であり、全世界の総電力消費の約1%に当たるとされる。

 新しいデジタル活用は、新たな電力需要を生みだす。例えば、世界のトップ棋士である柯 潔 九段を破った囲碁AI(人工知能)の「AlphaGO」は、25万ワットの電力を必要とした。仮想通貨bitcoinのマイニングの総消費電力量は、年間約73兆ワット時に達するという(Digiconomist調べ)。一般家庭の1日当たりの消費電力がエアコンの稼働率が高い時期でも17.4キロワット時程度だとされるから、その膨大さがわかる。

脱炭素の観点からもクラウド活用は進展する

 デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが進むに伴ってクラウド化は急速に進捗し、2020年のサービス収入が前年度比33%増だった(米Synergy Research調べ)。データセンター数も増加を続けている。

 データセンターの活用は、省エネ観点からも進む。一般に、自社でサーバーをオンプレミスに所有することと比較して、大規模なデータセンターは、専用の施設や冷却装置、最適化されたサーバーやネットワーク機器の活用などによって電力の使用効率が高い。集中処理によって高機能な機器を共有し、ハードウェアの使用率を高めることでも電力効率を高められる。

 クラウド化によって機器の使用率は、さらに高まる。クラウドでは、ソフトウェアによって実サーバー上に仮想のサーバー機能を実現している。高速なハードウェアを使えば、その上で動かす仮想サーバーの数を増やせる。様々な顧客にサービスを提供するなかで、その使い方や使用時間、使用頻度を基に稼働環境を最適な組み合わせで準備することで、全体のハードウェア使用率をさらに高められる。

 例えばAWS(Amazon Web Services)においては、オンプレミスでのサーバーの使用率が約15%であるのに対し、約65%の使用率を達成している。エネルギー効率も29%高い。脱炭素化の観点からもクラウド活用は貢献するわけだ。

 それだけにデータセンターにおける脱炭素化への取り組みは、脱炭素化社会の推進においても大きな課題になってくる。同時に、全体コストに占める電気代の割合が数十%を占めることもあり、省エネや電力価格の上昇を抑えることは、データセンター事業者にとっては重要な経営課題でもある。

 クラウドデータセンターにおける脱炭素化の動きは活発だ。図1に示す分野において推進されており、それぞれに実績を挙げている。

図1:クラウドデータセンターにおける脱炭素化へのアクション