• Column
  • 大和敏彦のデジタル未来予測

コロナ禍で加速するクラウド活用を支えるクラウドの進化【第43回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年4月19日

クラウドの2020年第四半期のサービス収入は前年度比で35%増加し、約2年で市場サイズは2倍になっている(米Synergy Research調べ)。クラウドの活用を増やしている要因は需要だけでなく、クラウド自体の進化によるサービスの増加や変化が後押ししている。進化するクラウドの現状と、その活用動向を見てみたい。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止策として、テレワークの推進によって仕事のデジタル化が進んでいる。そして生活シーンでもデジタルの活用が進む。

 例えば、家庭におけるソーシャルメディアの使用時間は44%増、スマホの使用時間は70%増、ビデオストリーミングのユーザー数は28%増、ゲームの売利上げは39%増、EC(電子商取引)の市場は25%増と急増している(米Statista調べ)。

 これら仕事、生活のデジタル化を支えるプラットフォームがクラウドであり、その活用も加速されている。

 クラウド活用は、インフラサービスであるIaaS(Infrastructure as a Service)の活用から始まった。図1に示すようなメリットを十分に生かし、クラウドをプラットフォームとして活用するネットベンチャーが次々と急成長した。

図1:インフラとしてのクラウドのメリット

 企業においても、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や、そこでの新ビジネス開発やビジネススピードの向上を目的にクラウド活用が増加していく。クラウドを優先して使う「クラウドファースト」の時代を経て、クラウドをプラットフォームとして使う「クラウドネイティブ」へと移行してきた。クラウドネイティブは、クラウドサービスの強みやメリットを、より積極的に活用する考え方だ。

 こうした流れの中で、クラウドの活用形態も変化してきた。複数のパブリッククラウドを使う「マルチクラウド」や、それら複数のパブリッククラウドやプライベートクラウド、オンプレミスを統合して使う「ハイブリッドクラウド」としての使い方である。

 『Global Increase in technology spending due to COVID-19』(Statista調べ)」によれば、コロナ禍で増加したテクノロジー支出において、ハイブリッド/マルチクラウドの活用は74%増で第2位になっている。

 ちなみに、1位は84%増のサイバーセキュリティである。3位以下には、RPA(Robotic Process Automation)に代表される自動化(66%増)、AI(59%増)、5G(49%増)、IoT(43%増)、AR/VR(38%増)、ブロックチェーン(27%増)が続く。

 サイバーセキュリティが1位になっている理由は、テレワークに伴ってサイバー攻撃が630%増(米McAfee調べ)と激増しており、これら脅威への対策や運用の強化が不可欠だからだろう。2021年度版の『IPAセキュリティ10大脅威』でも、テレワークなどニューノーマルな働き方を狙った攻撃が3位に挙がっている。

サービス重視がマルチ化/ハイブリッド化を促す

 さてマルチクラウドやハイブリッドクラウドの活用要因を考えてみたい。

 クラウドサービスは、実装モデルによって、(1)複数社で共用するパブリッククラウドと、(2)自社専用のプライベートクラウドに分類できる。マルチクラウドは、異なる事業者が提供する複数のサービスを使う使用形態、ハイブリッドクラウドは、それら複数のパブリッククラウドとプライベートクラウド、オンプレミスを統合して使う使用形態だ。

 なお(1)IaaS、(2)PaaS(Platform as a Service)、(3)SaaS(Software as a Service)などは、サービスモデルによる分類である。いずれのサービスモデルも利用形態としてはマルチ/ハイブリッドがある。

 マルチクラウド化のメリットとしては、リスク分散、冗長性、バックアップの実現がある。初期にはDR(Disaster Recovery:災害復旧)/BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策としての活用が注目された。また、特定のクラウドサービスプロバイダーに依存するロックインを避けられる。

 しかしマルチクラウドの活用は、そうしたインフラとしての要因から、より良い機能を選択するサービス要因へと移っている。複数のクラウドを組み合わせることで優れたクラウドサービスを統合し、最適なシステムを構築する流れであり、そのためにマルチクラウド化しハイブリッド化が進む。

 例えば、よく使われるクラウドサービスには、データウェアハウス(DWH)や、リレーショナル/No-SQLなどのデータベースがある。その際、自社の要望を満たすために、データウェアハウスにはGCP(Google Cloud Platform)のサービスを選択し、そのインフラとしてAWS(Amazon Web Services)のコンピューティングサービスを組み合わせて最適化なシステムを構築するような使われ方だ。