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次世代高度社会インフラ目指すBeyond5G(6G)への挑戦【第47回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年8月23日

5G(第5世代移動通信システム)の次に向けた「Beyond 5G」、つまり6G(第6世代移動通信システム)の国際開発競争が激しくなり、各国の投資も盛んだ。Beyond 5G/6Gという言葉をニュースで見聞きする機会も増えている。今回は、このBeyond 5Gによって何が変わり、社会にどのようなインパクトを与えるのか、その変革には何が必要とされるのかを考えてみたい。

 5G、6Gの「G」は「Generation(世代)」の略である。5Gは第5世代を、6Gは第6世代を、それぞれ示している。Beyond 5G/6Gを考えるに当たり、まずはモバイル通信の進化とインパクトを振り返ってみたい。

モバイル通信は生活インフラとなり大きな変化を生み出した

 モバイル通信は、アナログ通信の第1世代(1G)に始まり、デジタル化された第2世代(2G)から、国際統一基準が採用された第3世代(3G)へと進化した。第4世代(4G)では、「LTE(Long Term Evolution)」と呼ばれるパケット通信方式が採用され、モバイル通信における電話とデータの統合が図られた。

 そして5Gでは、高速・大容量、低遅延、多数の端末との同時接続が可能になる。特定の場所で、利用者専用の通信インフラとして使う「ローカル5G」も広がりつつある。これらの進化の過程で、モバイル通信が生み出す価値も増大してきた。

 1G/2Gの普及により電話がどこでも使えるようになり、仕事や生活に大きな変化をもたらした。3Gで実現した高速なマルチメディア通信は、電話に加え、様々な場所での情報へのアクセスを可能にした。4Gの下り通信速度が100メガビット/秒という高速化は、モバイルでのビデオや大容量データの活用を可能にし、遅延の短縮は、キャッシュレス決済などアプリケーションのインフラとして役割を高めた。

 生活インフラとして大きな変化を与えてきたモバイル通信は、5Gにおいては、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)によるセンサー接続や高品質画像の送信、高速リアルタイム通信が可能になり、スマート工場におけるローカル5Gのような企業インフラを含めて、さらに様々な社会への変化を起こそうとしている。

 このようにモバイル通信は、コミュニケーションインフラから情報アクセスやアプリケーションインフラへと発展し、さらに社会インフラとしての神経網や制御インフラへと進化を続けている。

次世代社会インフラ狙い国家間競争が激化

 では6Gは何を狙いとしているのか。総務省のBeyond 5G推進戦略が作成した『6Gへのロードマップ』によれば、「5Gは、生活基盤を超えた社会基盤へと進化することが見込まれ、Beyond 5G(いわゆる6G)は、サイバー空間を現実世界と一体化させ、Society 5.0のバックボーンとして中核的な機能を担うことが期待される」とあり、社会インフラとしての役割が強調されている。

 NTTドコモの『6Gホワイトペーパ―』は6Gの可能性について、「デジタルツインによって、実世界の制約を超えてエミュレートすることで、「未来予測」や「新たな知」を発見することができる。これを実世界へのサービスへ活用することで、社会問題の解決等、様々な価値やソリューションが提供できる」と述べ、社会問題の解決を狙いに挙げる。

 NTT、米インテル、ソニーなどが進める「IOWN(Innovative Optical Wireless Network)プロジェクト」では、無線の高機能化を支えるネットワークやコンピューティングをテーマに、オールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)、デジタルツイン・コンピューティング(DTC:Digital Twin Computing)、コグニティブ・ファウンデーション(CF:Cognitive Foundation)の実現を目指している。

APN :無線と接続し、高度活用を支えるバックボーンになる光の伝送路において、スイッチを含めたネットワーク全体の光化を目指す
DTC :都市におけるヒトと自動車など、産業やモノとヒトのデジタルツインの自在な掛け合わせによって、総合的に高精度な再現と未来の予測ができることを目指す。聴覚、視覚、触覚、味覚、嗅覚の五感、場所やモノから感じる感覚や、生理的感覚などの「多感通信」も研究する
CF :ICTリソースの配備や構成の最適化といった運用・管理の完全自動化・自律化と、自己進化の実現を目指す

 他国の6Gプロジェクトも、その狙いは次世代社会インフラの実現と、そこでの、よりイノベーティブで高度な活用だ。活用例としては、デジタルツイン、没入型xR(xReality:仮想現実、拡張現実など)、ホログラムコミュニケーション、感覚通信、自動運転やロボットの自動化のための神経網、制御インフラへの活用などが挙げられている。