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次世代高度社会インフラ目指すBeyond5G(6G)への挑戦【第47回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2021年8月23日

中国の台頭が安全上の危機感を募らせる

 このように6Gは高性能次世代社会インフラとして、今後の社会の発展や変革に大きなインパクトを与える。そのため6Gを開発し、その特許を押さえた国や企業は、次のデジタル変革をリードできる。このような重要性と共に、通信インフラの安全性や信頼性確保のためにも、自国の技術開発が重要だ。

 安全性の問題は、5Gにおける米中対立をきっかけに高まった。中国メーカーは2000年代の3G、4Gを足がかりに通信インフラ事業の世界展開をしてきた。2019年の基地局シェアでは、中国Hauweiが34.4%、中国ZTEが10.2%と中国勢だけで約45%を占めた(英Omdia調べ)。スマホでも2019年の出荷シェアはHauweiが17.6%(韓国Samsungに続く2位)、Xiaomiが9.25、OPPOが8.3%(米IDC調べ)である。

 巨大な市場を国内に抱えているということはあるにせよ、中国通信関連機器メーカーは急速な伸びで大きな存在となった。5Gでも、4G時代に作り上げた顧客網を生かし、中国国内のほか、アフリカや欧州などへの基地局導入を進めてきた。技術開発にも積極的で、5G関連の必須特許の19年6月末時点のシェアはHauweiが11%で米クアルコムに次ぐ2位である(サイバー創研調査)。

 中国の台頭だけでなく、2019年の基地局市場シェアは、Hauwei、ZTEに加え、スウェーデンEricsson、フィンランドNokia、韓国Samsungの5社で、約90%を占めている(英Omdia調べ)。

 こうした状況を変えるべく、Beyond 5Gの開発競争が始まった。中国や米黒は2018年に研究を開始し、より高い周波数の解放のほか、米Apple、米Google、米AT&Tなどが推進団体のNext G Allianceを設立した。韓国は2019年、日本やEU(欧州連合)では2020年に検討をスタートしている。

 中国では、本連載『5Gが変える社会、中国・深圳ではユースケースが続々と【第37回】』で述べたように、本来の5Gのシステム構成であるSA(Stand Alone)の基地局を展開し、そのインフラを基に、製造、医療、公共などのユースケースの実証実験を進めている。

 そこでHauweiは、5G基盤をさらに高度化するため、上り速度の向上や、高速大容量通信と低遅延通信の両立、通信とセンシングとの統合を図り、「5.5G」としての展開を目指している。韓国やEUでも同様のプロジェクトが進んでいる。

6Gの開発競争は技術のみにとどまらない

 6Gの目標スペックを表1に挙げる。スピードや遅延以外にも、カバレッジの拡張、高信頼性の目標が挙げられ、これらの実現によって、様々な高度活用を可能にする。

表1:6G 無線ネットワークへの要件(NTTドコモ『6Gホワイトペーパー』より筆者が作成)
項目5Gの要件6Gの要件
高速・大容量ピークレート20ギガビット/秒最大100ギガビット/秒超、100倍以上の大容量化、上りリンクの大容量化
低遅延無線区間の伝送遅延1ミリ秒以下エンドツーエンドで1ミリ秒以下、常時安定した低遅延性
多数の端末との接続1平方キロメートル当たり100万デバイス1平方キロメートル当たり1000万デバイス、高精度な即位とセンシング(1センチメートル未満)
カバレッジ拡張--陸上(面積)カバー率100%、空(高度1万メートル)/海(200海里)/宇宙へのチャレンジ
低消費電力・低コスト化--コスト低減、充電不要な超低消費電力デバイス
高信頼通信--幅広いユースケースにおける品質保証(99.9999%)、レベルの高いセキュリティと安全性

 6Gの社会インフラとしての活用や発展のためには、その技術開発だけでなく、以下のような点も検討と開発を進めていかなければいけない。

検討点1 :ユースケース、アプリケーション

 インフラは、それをどのように活用するかによって価値が決まる。いかに高性能なネットワークでも、それを活用するユースケースやアプリケーションがなければ、その価値は発揮できない。6Gの性能が実現すれば、様々な可能性が生まれる。既存のユースケースの高度化とともに、6Gで実現する性能を使った価値の高いイノベーティブなユースケースを同時に開発することが必要だ。

 高度な活用の検討や実証は、ネットワークの要件にフィードバックされ、さらに実用に近づく。ユースケースの開発のためにも、できるだけ早く使える6G環境も必要になる。

検討点2 :E2E(End to End)ソリューション

 ユースケースやアプリケーションの稼働環境は、無線ネットワーク、有線ネットワーク、デバイスやセンサー、IoT、各種処理を実行するためのクラウドやエッジコンピューティングなどを組み合わせたものになる。

 そこでの応答時間は、デバイスでの遅延、ネットワーク遅延、コンピューティング処理を合わせたものになる。ネットワークだけでなく、端末や機器、IoT、それを処理するクラウドやエッジコンピューティング、アプリケーションのためのAI(人工知能)技術や分析、画像処理などが影響する。それぞれの技術の性能向上と、ボトルネックをなくす最適な組み合わせを考えなければならない。

検討点3 :経済性

 技術の普及には経済性が必須だ。無料で使えるインターネット、モバイルの従量制から定額制への課金モデルの変化が、インターネット活用、スマホの進化とモバイル環境におけるビデオ視聴、ゲーム、など様々なアプリケーションを加速した。

 低価格化のためには、機器の低価格化、ネットワークを提供するキャリアでのオープンソースの活用、AI技術などによる自動化、電力削減などCAPEX(Capital Expenditure:設備投資)/OPEX(Operating Expense:運用費)の削減対策に加え、より付加価値の高いビジネスモデルの開発によるビジネス変革も必要になる。

ネットワークとアプリ/ユースケースの同時開発が重要

 5Gにより始まったモバイルネットワークの社会インフラ化は、6Gによってさらに重要性を増そうとしている。それに向けた開発競合がグローバルに広がっている。6Gによる性能の高度化は、その使い方によって価値が決まる。使用者にとって真に価値のあるアプリケーションやユースケースが生み出され、適切なコストで使用できることによって、ビジネスとしても広がっていく。

 アプリケーションやユースケースの実現には、E2E(End to End)のソリューションが必要になる。E2Eを実現する構成要素、およびその組み合わせもネットワークと合わせて開発することで、6Gインフラの活用をリードできる。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。