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政府の「クラウド バイ デフォルト原則」が推すクラウドの価値と検討ステップ【第52回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年1月24日

IaaSやPaaSよりもSaaSをもっと活用すべき

 基本計画が示す具体的なクラウドサービスの利用検討プロセスを示したのが図2である。

図2:基本計画が示すクラウドサービスの利用検討プロセス

 同プロセスでは最初に、「情報システム化の対象となるサービス・業務、取り扱う情報等を明確化した上で、メリット、開発の規模及び経費を基準に検討すべき」であり「クラウドサービス利用が著しく困難かクラウドサービス利用メリットと経費面の優位性が認められない場合のみオンプレミスとする」とある。つまり、クラウド バイ デフォルト原則の適用を述べている。

 クラウドを選択するということは、システムを「持つ」ことから「使う」ことへの転換だ。自社でコンピューター機器やソフトウェア、稼働する場所を持たずとも、クラウドサービスによって、必要な機能を、必要な時に。必要なだけ使用できる。

 その観点では、インフラであるIaaSやPaaSよりも、SaaSをもっと活用すべきだ。アプリケーションの開発が不要で、必要な機能がすぐに使え、機能強化もSaaS業者によって進められる。

 クラウドサービスとして提供されている機能と、必要とする機能が違う場合に、「これでは使えない」とするのではなく、SaaSに合わせた仕組みやプロセス変更の可能性、差別化の観点からの必要性などを検討した上での判断が必要である。SaaSでは、ベストプラクティスをシステム化していることも多く、それを使った業務やプロセスの改革が可能になる。

 自社開発を選択した場合にも、部品化や共通化の検討を進め、共通アプリケーション(プライベートSaaS)の実現を目指すべきである。図2の選択ステップにおいても、SaaSが最初の選択肢であり、中でもパブリックなSaaSサービスの検討が第1ステップになっている。

 『令和2年情報白書』では、SaaSの活用は、「ファイル保管・データ共有」の割合が56.0%と最も高い。次いで「電子メール」の48.0%、「社内情報共有・ポータル」の43.0%など、基本的な機能の活用が中心だ。「顧客管理」「営業支援」や「生産管理」などの高度な利用は低水準に留まっている。

 コロナ禍で、従来、対面や紙で実施していたアナログ業務のSaaS化や、Web会議の活用は進んだ。だが、世界の動向からは、まだ遅れている。SaaSを活用した変革が必要とされている。

行政システムのクラウドにAWSとGoogleを選択

 今回説明した政府が進める仕組みは既に動き出している。デジタル庁は2021年10月26日、行政システムのクラウド化に、ISMAPに登録されている米AWS(Amazon Web Services)と米Googleの2社を選んだと発表した。同年11月から、神戸市や京都府笠置町など人口規模やデジタル化の度合いが異なる8つの自治体で先行してクラウドサービスの活用を始め、試行事業を進めていく。

 こうした政府のクラウド活用方針や検討ステップは、クラウドサービスのメリットを理解して活用するという観点では、一般企業などでも機能する。

 しかし、クラウド化を進めること自体が目的ではない。クラウドサービスを使って業務やプロセスの改革、新ビジネス・新サービスの迅速な立ち上げが本来の目的だ。そのためにはDXによって何を目指すのかというデジタル化のビジョンと戦略の構築、および変化に柔軟に対応してDXやクラウド活用検討を自ら進められる体制の構築が必要である。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。