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- 大和敏彦のデジタル未来予測
「EV×DX」で始まる自動車業界の大変革【第53回】
自動車業界は「100年に1度の変革期にある」とされ、大きく変わろうとしている。変革を引き起こす要因は「CASE(Connected:ネット接続、Autonomous:自動運転、Shared:シェアリング、Electric:化石燃料から電気へ)」だが、中でもEV(Electric Vehicle:電気自動車)の競争が激化している。製品だけでなく、開発・製造・保守のエコシステムやビジネスモデルの変革が始まっている。
2050年のカーボンニュートラル達成の目標に向けてEU(European Union:欧州連合)は、ハイブリッド車を含むガソリン車など内燃機関車の新車販売を2035年に終了する方針を打ち出している。同様の動きが世界に広がっている。中国は2035年までに新車販売のすべてをEV(Electric Vehicle:電気自動車。正確にはBEV:Battery Electric Vehicle)などの新エネルギー車やハイブリッド車にする計画を打ち出している。米カリフォルニア州は2035年までにガソリン車の新車販売を禁止する。
EV化によって、多くの国が石油の海外輸入に依存している状況が変えられる。2019年時点で自動車は世界の石油需要の25%を占めている(IEA:International Energy Agency調べ)。カーボンニュートラル化を進められれば、石油に依存する社会的・政治的なリスクを下げられる。
こうした背景からEVの販売は急速に伸びている(図1)。現状、EVの販売台数は世界の全自動車販売台数の6.4%に過ぎない(英JATO調べ)。だが急速な成長が期待できるだけに、世界中で様々な企業がEV市場に参入したりEVシフトを始めたりしている。
現時点でEV業界をリードするのが米テスラである。テスラへの期待から株価時価総額は1兆ドルを越えた。ほかにも米国では、Google傘下のWaymoが自動運転の公道での走行試験による実績を積み上げている。AppleもEVによって「自動車のスマホ化」を目指すとされる。Intelは中国企業と共同で自動運転EVの開発計画を発表している。
中国もEVでのリーダーを目指し、多くの企業が参入している。その中には、格安EVメーカーや、早くから自動運転を手掛けてきたBaidu、自動運転のプラットフォームを開発中のHuaweiなどがいる。
日本でも、2022年1月にSONYグループがEVへの正式参入を決めた。「クリエイティブエンタテインメントカンパニー」として、モビリティを再定義するとしている。他にも、台湾の鴻海精密工業などが新規参入組として挙げられる。
既存の自動車メーカーもEVシフトを速めている。欧州では、VW・AudiグループやMercedes Benz、BMWのドイツメーカーが、米国ではGM、Fordなどの自動車メーカーが参入している。
日本のトヨタ自動車は、4兆円を投資し2030年までに30車種のEVを投入し、生産台数350万台を目指すと発表した。日産自動車と三菱自動車、仏ルノーの3社連合も、今後5年間でEVに約3兆円を投資し、EVを計35車種投入すると発表している。
このように新規参入組により競争が激化している大きな理由は、EV化によって自動車という製品自体が大きく変わり、競争力に大きな変化が起きるためである。内燃機関エンジンは、多いものでは1万点もの部品から構成されると言われている。同エンジンを動力とする内燃機関車に対しEVは、部品点数が少なく構造がシンプルになる。
さらにAppleが「自動車のスマホ化」と言うように、ソフトウェアの比重が高まり、製品やビジネスモデルのデジタルトランスフォーメーション(DX)も進む(図2)。ここにデジタル技術に強みを持つ企業が、それを生かすチャンスが生まれている。
これらの変化を次の3つの観点から見てみたい。
(1)製品構造の変化による産業やエコシステムへのインパクト
(2)ソフトウェア化の加速による変革
(3)MaaS(Mobility as a Service)と自動運転化による変革