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社会インフラとしての5Gの要件【第54回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年3月22日

東京・新宿副都心で2022年1月、大成建設やKDDIなどが5G(第5世代移動通信システム)を使った自動運転の実証実験を実施した。自動運転車は、信号機の色が変わるまでの時間や、死角となる部分の情報を5G経由で受け取り、自らのセンサー情報と合わせて運転動作を判断する。こうした例のように5Gは、スマートフォンでのモバイル活用だけでなく、社会インフラとしての利用が期待されている。今回は社会インフラとしての5Gのあり方を考えてみる。

 5G(第5世代移動通信システム)の活用は、自動運転車などのコネクティッドカーだけでなく、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を応用したスマート工場やスマート物流、スマートシティやスマートヘルスケアといった各種のDX(Digital Transformation)をさらに高度化し、新しい利用方法を生み出していく。

日本の5Gの課題と現状

 日本の5Gに対しては、2022年3月時点では、以下の課題が挙げられている。

課題1 :使える環境=基地局がまだ十分でなく、5Gの本来の機能が使えていない
課題2 :料金=サービスによっては通信量に上限があり、ビジネス用途が求める品質や料金体制が導入されていない。ローカル5Gの構築では機器が高価である
課題3 :デバイス=スマホやWi-Fiルータ以外、5Gに直接接続できるデバイスが少ない
課題4 :アプリケーション=5Gを生かすアプリケーションやユースケースの開発が進んでいない

 使える環境が広がり料金問題が解決すれば、接続可能なデバイスも増え、アプリケーションやユースケースも増えていく。一方で、環境や料金の課題を解決するためには、アプリケーションやユースケースによって顧客が増える必要がある。

 5Gを使える環境としては次の方法がある。

・モバイルキャリアが提供する「パブリック5G」
・特定の場所で専用の5G環境を構築する「ローカル5G」
・モバイルキャリアなどが仮想ネットワークとして提供する「プライベート5G」

 環境は急速に改善しつつある。それぞれの現状を見てみよう。

パブリック5Gの現状

 5G基地局の数は急速に増えつつある。その設置状況は、NTTドコモが2021年6月に累計1万局を突破、KDDIは2021年3月末時点で1万局、2022年3月末時点には5万局を超える予定である。ソフトバンクは2022年1月に2万3000局超、楽天は2021年9月の段階で2000カ所と発表されている。

 5Gの環境としては、基地局の数だけでなく、密度の問題もある。5Gで使用可能になった「ミリ波」と呼ばれる高周波数は、広い帯域幅の確保や多数同時接続が可能だが、直進性が高いため障害物があると届かず、減衰が早いなどの特徴がある。このため、広い帯域幅や多数同時接続のためには基地局の密度を高めなければならない。

 これまでと異なる場所に基地局を設置するための動きも始まっている。2019年6月の「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」には、信号機を5G基地局に活用する計画が盛り込まれた。全国21万カ所にある信号機が対象で、東京・新宿副都心での自動運転車と周辺道路の状況などをやり取りする実証実験も始まっている。

 このように、スマホを対象としたモバイルネットワークから、人以外のモノも接続する社会インフラとして進化させていくためには、基地局の数や密度に関して、これまでの4Gとは違った展開が必要になる。

5G本来の性能を発揮するのは「5G SA」方式

 基地局の仕様も重要だ。モバイルネットワークは、アンテナやユーザーのデバイスを接続する基地局と、それを制御・管理するコア設備からなっている。この両者が5G対応になったものが「5G SA(Stand Alone)」であり、5G本来の性能を発揮できる。

 ただ現在の基地局は、5Gの基地局を4Gのコア設備から管理・制御する「5G NSA(Non-Stand Alone)」と呼ばれる方式になっている。高速性や大容量化の性能は提供できるが、それら以外の性能や、5Gの大きな特徴でもある1つのネットワークを仮想的に分割する「ネットワークスライシング」技術が提供できない。ネットワークスライシング技術は、要求品質に応じた仮想ネットワークを提供でき、用途に応じた料金体系も設定できる。

 SA方式の導入によって、本格的なパブリック5Gのインフラが完成する。日本での5G SAの稼働状況は、ソフトバンクが2021年10月に国内初の商用サービスを、ドコモは2021年12月から商用サービスを開始した。KDDIは2021年9月に試験運用を始め、楽天は2022年第2四半期に導入予定である。

 グローバルにみれば、5Gの展開が世界一進んでいるのは中国だ。2021年末で5Gの屋外基地局が累計142万5000カ所に設置されている(中国工業情報部調べ)。深圳などの大都市では5万を越えており、高い密度で5G基地局が設置されていることがわかる。しかも多くの5G基地局はすでに、5G本来の機能を発揮できるSA方式で運営されている。