• Column
  • 大和敏彦のデジタル未来予測

デジタル戦略を支えるプラットフォームになるクラウド【第57回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年6月20日

クラウドは、成長へ向けたデジタル戦略を支える基盤として期待が増加し、その重要性を増している。クラウドが提供するサービスも、機能強化や新機能の追加によって進化を続けている。今回は、クラウドへの期待の変化と、その活用を見直してみたい。

 日本政府はクラウドサービスを安定供給が必要な「特定重要物資」として指定する調整に入った。特定重要物資とは、半導体や医薬品のように、経済安全保障上、安定供給が必要な物資を指す。クラウドは、企業や国を支えるインフラとしての重要性から選ばれる時代を迎えているわけだ。

 クラウドの進化に伴い、クラウドの経営への貢献に対する期待も高まっている。クラウド活用は「企業やビジネスの強化に役立ち、クラウドが持つポテンシャルを利用してデジタル変革を推進していこう」とする考えが広がっている。

 米IBMと英オックスフォードエコノミクスは、クラウド活用への期待や活用を『Cloud’s Next Leap』というレポートにまとめている。その基になっている44カ国7164人を対象にしたアンケートでは、79%の企業が最優先事項として「企業やビジネスをデジタルで強化することを考えている」と答え、そのために総合的で高度なクラウド機能を求めている。「クラウドがもたらす変革の力が、まだ十分発揮されてない」と考える人も多い。

経営戦略に密接に関係するようになったクラウド

 クラウドの利用は、IT部門におけるインフラのサービス化から始まり、クラウドがすべてのITのベースになり、さらに戦略プラットフォームとして経営戦略にも密接に関係するようになった(図1)。

図1:クラウドの利用者と、利用目的の変化

 そうしたクラウドの価値の進化を『Cloud’s Next Leap』は、4つのバージョンに分けて、次のように定義する。

クラウド v1 :サーバーやストレージなどのITインフラをサービスとして購入できるようになり、使用に応じた支払いが可能になった。主なユーザーは、企業のインフラを担当するIT部門で、オンプレミスに比べたコストの安さや簡易性、柔軟性が価値になった。

クラウド v2 :サービスを、クレジットカードを使って誰もが簡単に購入して使用できるようになった。IT部門以外のユーザーも、IT部門の支援なしにSaaS(Software as a Service)などのクラウドサービスが使えるようになった。必要な部門が必要なITサービスを必要な時に使うことが可能になった。

 一方、IT部門をバイパスすることにより、管理されないクラウド活用が増える「Shadow IT」の問題も起こった。

クラウド v3 :「クラウド ファースト」「クラウド バイ デフォルト」と呼ばれ旧来のデータセンターモデルを置き換えていった。企業のアプリケーションやコンピューティング、ネットワークのためのインフラとして、クラウドが拡張性や柔軟性、迅速性、コスト削減などの価値を提供した。

 アプリケーション開発においても、より短期間での開発を可能とするクラウドの開発環境によって、開発プロセスを改革し、開発・運用の両面で価値を提供するようになった。この動きにより、クラウドが提供する機能や、その開発環境、ツール、アプリケーションなどによってクラウドが選ばれるようになり、ハイブリッドやマルチクラウドの動きが広がっていった。

クラウド v4 :クラウドへの期待は、デジタルによる企業のビジネス変革のプラットフォームへと進化し、デジタル戦略を中心にした企業戦略と連携したクラウド活用が重要になってきた。新しいCX(Customer Experience)の実現、企業のビジネスモデル、基幹ビジネスのプロセス変革や顧客関係の改革によって企業の成長を実現するプラットフォームとしての役割が高まってきた。