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デジタル戦略を支えるプラットフォームになるクラウド【第57回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年6月20日

ハイパークラウドプロバイダーがクラウドの進化を牽引

 『Cloud’s Next Leap』のアンケートは、企業のデジタル推進に関する投資の優先順位も聞いている(図2)。製品やサービスのデジタル化、コロナ禍からの回復、CXの向上など成長につながる内容が優先順位の上位に挙がる。

図2:デジタル推進に関するクラウド投資の優先順位

 このような変化をリードしてきたのが「ハイパークラウドプロバイダー」、すなわちAWS(Amazon Web Services)、Microsoft、Googleなどだ。2022年第1四半期に前年度比34%増と成長したクラウド市場におけるシェアは、それぞれ33%、22%、10%と、これら3社だけで65%を占めている(米Synergy Research Group調べ)。

 ハイパークラウドプロバイダーを中心に、クラウドの機能強化や新機能の提供が進んでいる。『コロナ禍で加速するクラウド活用を支えるクラウドの進化』で述べたように、既存機能の強化や自動化による利便性と共に、AI(人工知能)や機械学習、ブロックチェーン、エッジコンピューティングや量子コンピューターといった先端技術も利用可能になっている。

 AWSを例にとれば、機械学習だけで32ものサービスを提供している。これらサービスを活用することで機械学習を活用したビジネス改革が可能になる。

 様々な業界向けサービスも追加されている。汎用サービスを業界向けにカスタマイズしたり、業界向けソリューションを提供したりすることによって、これまでクラウド化が難しかった分野にも適用範囲が広がっている。

 米AT&Tが進めている4G/5GコアネットワークのMicrosoft Azureへの移行が、その一例だ。同プロジェクトを基にMicrosoftは、4G/5Gなどのモバイルネットワーク機能を提供する「Azure for Operators」の提供を開始した。

 Azure for Operatorsは、モバイルネットワークを実現するためのネットワーク機能や、OSS(Operation Support System)やBSS(Business Support System)と呼ばれる管理機能、エッジコンピューティング機能をクラウドから提供する。これにより、モバイルキャリアの構築や運用、サービスを大きく変えられる。

 クラウドに期待される価値において、4番目に挙がるのがサイバーセキュリティの向上、セキュリティリスクの低減だ。『凶暴化するサイバー攻撃への対処としてのゼロトラストとデータ管理』の中で、サイバー攻撃が増加し凶暴化していると述べた。クラウドが重要になればなるほど、その安全性が不可欠で、サイバー攻撃までを想定した対策が必要になる。

 クラウドのセキュリティに関しては、Google Cloudが発表したレポート『飽くなき挑戦 パンデミックがデジタル ビジネスの課題をどのように変えたのか』では、オンプレミスと比べて「クラウドの安全性が高い」とする回答が37%と、「低い」とする15%を上回っている。クラウドを使うことで、セキュリティリスクの軽減や懸念事項へ対応し、ITおよび開発者のスキルセット不足を補うことが期待されるからだ。

 ハイパークラウドプロバイダーはセキュリティ面でも強化を続けている。セキュリティ人材が不足する中、買収や投資によってセキュリティ機能を強化している。

 セキュリティ分野においてMicrosoftは、2016以降にCyberX、ReFirmLabs、RiskIQなど8社を買収し19社に投資した。Googleの投資先は33社に上る。今後5年間では、Microsoftは200億ドルを、Googleは100億ドルをサイバーセキュリティにそれぞれ投資すると発表。Amazon.comもデータ保護や脅威の検知への対応を買収によって強化すると発表している(CBinsights調べ)。

機能選択とサスティナビリティがマルチクラウド化を求める

 ハイパークラウドプロバイダーによる寡占が進む一方、マルチクラウド化が進んでいる。その背景には、機能面で最適なサービスを選択する動きと、障害復旧対策やBCP(Business Continus Plan)などサステナビリティを実現する動きがある。Googleのレポートによれば、66%の企業が複数のパブリッククラウドを活用しており、マルチクラウド化や、プライベートクラウドとパブリッククラウドを活用するハイブリッドクラウド化が進む。

 デジタル戦略としてクラウドを選択する場合、機能面とサステナビリティのどちらを優先するかを判断しなければならない。マルチクラウドにすれば管理の問題が生じる。統合管理の仕組みや、ワークロードの調整やバックアップのためのアプリケーション移行の容易さも必要になる。

 クラウドは、ビジネスの成長に不可欠なプラットフォームになってきている。Googleのレポートでは、日本企業の57%が「デジタル戦略を採用している」か「デジタル化への移行が完了している」と答えているものの、他国に比べて、その進捗は遅れている。企業の成長に向けたデジタル戦略の策定と、それを実現するための体制作りを推進する必要がある。

 クラウドを成長の戦略プラットフォームとして活用するためには、ビジネスプロセスや製品/サービスの変革、新しいCXの実現といったデジタル戦略において、その達成にクラウドのどのような機能が役立つのか、クラウドの機能によって何が可能になるのかを検討し活用していかねばならない。

 そのためには、クラウドの機能の進化やユースケースの動向を把握する必要がある。マルチクラウドに関しても、成長への貢献とサステナビリティ実現の観点からクラウドを選択するべきだ。ビジネスの成長に向けた企業の戦略プラットフォームとしてのクラウド活用を進めたい。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。