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スマートホームの進展が家庭内プラットフォームを求める【第61回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年10月24日

日本のスマートホームの進ちょくは遅い

 AmazonとGoogleの取り組みが示すように、スマートスピーカーがスマートホームの中心として、さまざまなコントロールや情報管理の核として広がりつつある。他にも米Appleや中国メーカーもスマートスピーカーのシェア上位にある。

 こうしたプラットフォーマーは、さまざまな行動データを入手し、そのデータを学習することで各種サービスを進化させてきた。家庭のデジタルプラットフォーム化により、生活者の行動データやスマートデバイスのデータを収集し、ルールエンジンやAIに学習させれば、家財や住居のメインテナンスの必要性が判断でき、新製品/新サービスにつなげられる。

 しかし一方で、日本ではスマートホームの進ちょくが遅い。理由として、日本の住宅には合わない、導入が難しい、メリットが感じられないなどが挙げられている。

 もう1つの理由に、スマートホームの推進者が、米国ではプラットフォーマーであるのに対し、日本では住宅メーカーが主体で、家電やデバイスのメーカーはスマート機能を実現したデバイスだけを販売していることがある。データを収集し新しいビジネスにつなげるという観点が弱い、あるいは、各社の思惑が交錯し足なみが揃わないという要因になっている。

 実際、ICT総研がインターネットユーザー3226人を対象にしたWebアンケートの結果『2021年スマートホーム家電の利用動向に関する調査』によれば、スマートホームについて「意味を把握している」「聞いたことがある」との回答割合が68.0%ありながらも、「スマート家電を利用している」との回答者は426人で13.2%に留まった。

 利用しているスマート家電としては、スマートスピーカーが12.5%と最も多かった。スマートリモコンや、スマートライト、スマートプラグ、スマートセンサーは、いずれも約2%程度である。スマート家電を選ぶ際に重視する点としては、「製品の機能・性能」と「価格」がそれぞれ約45%でトップ2だった。

 役立つ機能・品質を持ち、価格が適当であればスマートスピーカーの導入が進んでいく。野村総合研究所(NRI)は、日本のスマートスピーカーの保有率は2025年には約39%に上昇すると予測している。今後は、スマートスピーカーを中心としたスマートホーム化が日本でも進んでいくとみられる。

スマート家電起点のスマートホーム化では連動性・統合性が不可欠

 スマート家電を起点としたスマートホーム化においては、次の点に気を付けなければならない。

留意点1:連動性と統合性

 スマートデバイスは、それぞれが連動することによって、便利さがさらに増す。例えば、センサーによる温度や天気の感知と連動した空調の温度管理や稼働、状況に応じたロボット掃除機の自動稼働などが考えられる。連動性や統合性を実現するためにはコネクティビティ(接続性)の標準化が必要であり、それが実現できなければつながらない。

 スマートデバイスのコネクティビティに関しては、Apple、Amazon、Google、Zigbee Allianceなどが2019年に「Connectivity Standards Alliance」を立ち上げ、業界標準の確立を図ろうとしている。このような業界標準が実現すれば、それに準拠した製品はコネクティビティを持て、スマートデバイスが連動した統合性のあるスマートホームを実現できる。

留意点2:ネットワークとセキュリティ

 スマート家電を使うためには、家庭へのネットワークと家庭内のネットワークとが必要になる。今後、メタバースの広がりによって、コミュニケーションやエンタテイメントにVR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)のようなリソースを大量消費する技術が使われるようになると、ネットワークスピードは、ますます必要になる。

 FTTH(Fiber to the Home:光回線サービス)の契約数は2021年3月末時点での3501万3000件である(MM総研調べ)。2020年3月末から年間194万5000件の増加、伸び率は5.9%だ。5G(第5世代移動通信サービス)により、ネットワークスピードと使い易さはさらに高まり、スマートホーム機器の発展も期待される。

 ネットワーク接続において気を付けなければならないのがセキュリティである。不正アクセスによって、家庭内の情報やデバイスをハックされたり、スマートデバイスが乗っ取られDDoS攻撃に使われたりすることが考えられる。

 国内におよそ19万ある機器が、インターネットを通じて外部からアクセスできる状態にあると言われている。そこでは、最新ソフトウェアに更新されていない機器や、パスワードが工場出荷時のまま使われている機器が多数発見されている。これらネットワークの装備、スマートデバイスのセキュリティ対策も重要だ。

家電、デバイスに加えエネルギーの統合管理の中心に

 スマートホーム化がスマート家電導入から始まったとしても、スマートホームとしての統合環境を実現することで、生活をより便利に、より快適にできる。そのためには、役立つ機能・品質の実現と共に、スマートスピーカーのような機器をプラットフォームとした統合管理を可能にしなければならない。

 今後さらに、さまざまな家電やデバイスがスマート化してくれば、セキュアなネットワークとスマートデバイスを接続し、全体を統合管理できるようなプラットフォーム化が必要になるからだ。

 一方で脱炭素化の動きは激しくなる一方だ。例えば、東京都は事業者に対し太陽光パネル設置の義務化を図り、国土交通省は新築住宅の住宅ローンに省エネ基準準拠を条件にしたりしている。スマートホームがエネルギーを統合管理する動きを加速させる可能性もある。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。