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スマートホームの進展が家庭内プラットフォームを求める【第61回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年10月24日

米Amazon.comが2022年8月、ロボット掃除機の先駆けである「ルンバ」を手がける米iRobotを17億ドル(約2500億円。1ドル145円換算)で買収すると発表した。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)アプリケーションの代表例として紹介されてきたスマートホーム分野での競争激化が予想される。今回は、Amazonの事業強化にみられるように、プラットフォーム化が進むであろうスマートホームについて考察する。

 ロボット掃除機「ルンバ」を手がける米iRobotの買収を発表した米Amazon.com。「家事が貴重な時間を奪っている。人々の生活をより楽に、楽しいものにできるよう発明していく」と家庭に向けた事業展開の強化を狙う。

 AmazonのiRobot買収が象徴するように、コロナ禍でのスマートホーム化が加速されている。家庭でのインターネット利用や家電のスマートデバイス化に加え、リモートワークの広がりにより家庭での仕事が普通になり、自宅で過ごす時間が増えたことが背景にある。

 省エネ・脱炭素を目指したエネルギー管理の動きも後押しする。世界のスマートホーム市場は2021年の845億米ドル(約12兆2500億円。1ドル145円換算、以下同)から年平均10.4%で成長し、2026年には1389億米ドル(20兆1400億円)に達すると予測されている(グローバルインフォメーション調べ)。

AmazonとGoogleがリードする米スマートホーム市場

 スマートホームは、ネットワークのコネクティビティ(接続性)を基に、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といったデジタル技術を使い、便利で快適な生活環境を実現し、時間の節約や生活の快適性などを提供する。同時に、エネルギー管理やセキュリティの確保など家庭での統合マネジメントにも使われる。

 家庭向けスマートデバイスが提供する機能を使えば、図1のようなことが実現できる。

図1:スマートデバイスが提供する機能と、それによって実現できる家庭向けのサービスの例

 これらスマートホームの展開をリードするのが、Amazonや米Googleのようなプラットフォーマーである。両者の動きを見てみたい。

Amazon.comのスマートフォームへの取り組み

 Amazonは、音声AIシステム「Alexa」を搭載するスマートスピーカー「Amazon Echo」を中心にスマートホームへの展開を図っている。Alexaは全世界のスマートスピーカー市場において、2021年第3四半期に26.4%のシェアを占めている(米Statista調べ)。

 Wi-Fiが使える環境下にAmazon Echoを配置することで、音楽などのエンタテインメント視聴のほか、ニュースや天気、スケジュール、時刻の確認、家庭内コミュニケーションや音声による家電や住宅設備のコントロールができる環境を実現しようとしている。

 その推進のためのM&A(企業の買収と合併)を進めてきた。2017年にスマートホームセキュリティカメラのBlinkを、2018年にドアベル会社のDoorbell、2019年にはメッシュ型Wi-Fiルーターを持つ米eeroを、それぞれ買収した。2018年には住宅建設最大手の米LENNARと提携し、将来の住宅や暮らしを体験できる「Amazon Experience Center」を開設してもいる。

 2022年8月に買収を発表したiRobotの最新モデルは、間取りや家具の位置などを把握する「ホームマップ」機能を備え、部屋ごとに順に掃除したり家具にぶつからずに掃除したりができる。ホームマップを使えば、対象にする部屋の指定や、ロボットに別の部屋からものを取って来るように指示することも可能になる。

 Amazonはすでにホームロボット「Astro」も発表している。Astroは、カメラとディスプレイを持ち自律移動ができる。Astroを使ったホームセキュリティサービス「Ring Protect Pro」と見守りサービス「Alexa Together」も発表しているが、これらのサービスにもホームマップは重要な機能である。

Googleのスマートフォームへの取り組み

 Googleは2014年に、サーモスタットと火災報知器のメーカーである米Nestを32億ドルで買収している。このNestに「Google Home」と言われたスマートスピーカーを統合することで、家庭内のあらゆる機器やサービスをコントロールするための中心にすることを狙っている。Googleのスマートスピーカー市場のシェアは20.5%だ。

 Nestにスマートスピーカーを統合した「Google Nest Hab(第2世代)」では、音声やジャスチャーによって、音楽などのエンタテインメント視聴や、ニュースや天気、時刻の確認、スケジュール管理やコミュニケーション、スマートデバイスの操作といった機能を実現している。