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NFTやWeb3などブロックチェーンをインフラにDXが進む【第66回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年3月20日

自立・分散型の仕組みを安価かつ容易に実現

 ブロックチェーンのインパクトはインフラだけにとどまらない。自律的な分散処理によって、従来はコストやシステム的に難しかった仕組みの実現が容易になるためである。その例として、(1)分散デジタル認証、(2)NFT(Non Fungible Token)、(3)DeFi(Distributed Finance)、(4)DAO(Distributed Autonomous Organization)それぞれの仕組みを見てみたい。

分散デジタル認証

 デジタル化が進むと、詐欺や不正を防ぐためにデジタル認証の重要性が高まる。デジタル認証にブロックチェーンを使えば、データの暗号化やデータの分散、ハッシュ値によるデジタル署名などにより、改ざんができないことや分散性といった強みを生かした個人の身分や権利の証明が可能になる。

 認証はこれまで、サービスプロバイダーに任せてきた。だがブロックチェーンを使えば、個人がオーナーシップをもって認証をコントロールできるようになる。具体的には、誰もが安全かつ簡単にデジタルIDを発行でき、ネットワーク上での取引や契約に対し、デジタル署名による署名者の身元や文書内容の保証、デジタルIDによる本人確認やアクセス制御ができる。

NFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)

 NFTは、デジタル作品が唯一無二のものであることをブロックチェーンを使って証明し、デジタル資産の作者や所有者を保証するための仕組みである。スマートコントラクト機能により、NFTの権利者をNFTの受け渡しと同時にブロックチェーン上に自動で記録する。

 デジタル作品はコピーが容易なため市場が成立しがたかったが、そのユニーク性を証明することで市場での取引を可能にした。デジタル作品の保証から生まれたNFTだが、その活用範囲は、カードや紙で発行されてきた会員証や不動産の所有権、トレーディングカードなど、その価値の担保が必要な分野に広がっている。市場規模は2030年には2117.2億米ドルに達するとされる(米ZDNet調べ)。

DeFi(Distributed Finance:分散型金融)

 DeFiは、特定の金融機関に依存しないブロックチェーンを使ったオープンソースプラットフォームによって提供される金融サービスで、暗号資産の中だけで金融取引ができる。

 DeFiの例としては、法定通貨(ドルや円)と連動したステーブルコイン、スマートコントラクトを使った分散型暗号資産の取引所、暗号資産を担保にした借出などがある。「合成資産」といった新しい暗号資産を作り出すサービスも生まれている。

 従来の金融サービスは中央集権型であり、金融機関は莫大なコストをかけてシステムを開発し事務処理にも多くの人件費を当ててきた。DeFiでは、これらを削減できるため、利用者はサービスを安価に利用でき、高い運用利回りが期待できる。ただし非中央集権であるため、規制すべき対象が明確でなく規制が難しいという課題がある。

DAO(Distributed Autonomous Organization:分散型自立組織)

 DAOは、組織の運営ルールや方向性を全員の投票によって民主的に決定する
コミュニティや組織である。既存組織は、中央の意思決定者からのトップダウンの指示によって管理・運営されている。DAOは、意思決定のための投票に改ざんが不可能なブロックチェーンを使ったスマートコントラクトが使われる。

 世界ではすでに1万1000を越えるDAOが、ビットコインや、ブログサービス、クラウドソーシングなどの分野で活動している(イスラエルのDeepDAO Ventures調べ)。

法整備や利用者のデジタルリテラシー向上が必要

 ここまで概観してきたように、ブロックチェーンは、既存の仕組みをより効率化し自動化するためだけでなく、仕組みや組織を変えるためのインフラとしても利用され始めている。大規模なソフトウェアやコンピューターリソースを必要とせず、必要な仕組みを簡単に実現できる。非改ざん性やセキュリティ、透明性といった特徴は、プラットフォームとしての機能を満たしている。

 P2P/ブロックチェーンによる分散化機能は、中央集権ではない新しい決定機構やコミュニティを実現し、「Web3」インフラとしても広がっていく。Wbe3は、ブロックチェーンによって実現される分散型インターネットであり、特定の管理者を置くことなく、利用者自身が情報やコンテンツを管理し、自由にやり取りができる。

 しかし、多くの組織・個人は、中央集権型に慣れ、仲介のプロバイダーに慣れた状況にある。そこから個人がデータのオーナーシップを持ち自由度の高い分散型の仕組みに変わっていくには、システムの成熟や法整備に加え、利用者のデジタルリテラシーの向上が必要である。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。