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ChatGPTが加速した企業や社会のAI活用【第67回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年4月17日

ChatGPTを自社製品/サービスに組み込む動きが活発に

 上記は、ChatGPTをそのままで使う例だが、GPTはAPI(アプリケーションプログラミングインターフェース)によって他のツールに組み込んでも利用できる。製品/サービスに組み込み利用者に対する「AIアシスタント」として活用する動きも始まっている。

 OpenAIに出資するMicrosoftは、同社のすべての製品をAI技術で作り変えると発表し、さまざまな製品にGPT機能を組み込んでいく。例えば、検索ツール「Bing」へのGPT機能の組み込みでは、チャット形式でのインターネット検索や、回答の根拠となるWebへのアクセス表示を可能にする。Web会議システムの「Teams Premium」では、インテリジェントな要約やチャプター分割した会議記録の作成などを実現する。

 オフィススイートの「Microsoft 365 Copilot」では、自然言語形式で要望や指示を出せば、WordやExcel、PowerPointによるそれぞれの処理を支援するほか、文書からプレゼンテーションが作成できるようにもする。「Copilot(コパイロット=副操縦士)」と名付けたインテリジェントな支援機能を各種製品に組み込むことで、利用効率を高め仕事の生産性を高めるとする。

 Microsoft以外にも、GPT/ChatGPTを自社の製品/サービスに組む込む動きが始まっている。製品/サービスのインテリジェンスを高め差別化を図るのが目的だ。

 例えば、米Salesforceは同社のビジネスSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)である「Slack」にChatGPTを組み込み、会話の要約や返信の下書き作成機能を構築する。米Morgan Stanleyは蓄積してきたウェルスマネジメントの知識を引き出すための社内向けチャットボットの構築を志向中であり、電子決済の米Stripeは詐欺対策に有効かどうかをテスト中だ。

 日本でも、新興企業がChatGPTを活用したサービスを発表している。社内サービスの自動応答や、データベースに基づくテキストの生成・抽出・要約、説明文や要約文の作成などである。専門家の知識を学習させた専門家としてのサービスも発表されている。弁護士ドットコムは、従来の法律相談のやり取りを学習させるで、ChatGPTを使った無料の法律相談サービスの開始を計画する。

 OpenAIおよびMicrosoftの急進に対し、競合各社の動きも慌ただしい。米Googleは2023年3月22日、対話型AIシステム「Bard」を米国と英国で一般公開した。これまでの検索方法と異なり、人間と会話するような文章で質問でき、それに対してBardがビッグデータを用いて自然な回答をしてくれる。中国ではBaidu(百度)が、中国版ChatGPTである「ERNIE Bot」を発表した。

データをより所にする大規模言語モデルの課題や懸念も

 GPTを支える技術は、自然言語処理技術を使って、人間が話したり書いたりする言葉を単語の出現確率を考慮して構築した大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)である。Web上の何十億ものテキストから、ある文章の後に次に登場する文章を確率的に表現するためのモデルを機械学習によって構築した。目的に基づいて該当するデータを学習する通常の機械学習ではなく、基本的にすべての文章をそれぞれの関係性として機械学習することでLLM化している。

 機械学習としては、教師あり学習や、回答に関する報酬モデルでの学習、強化学習などを活用しており、何十億もの巨大なデータを、数十万台のCPU(中央演算処理装置)とGPU(画像処理プロセサ)を使ったクラウドによる膨大な計算量によって、アウトプットの精度を高めている。AIによる自然言語処理の進化とクラウドの処理能力の高まりが、大規模な既存情報を処理し自然な文書の生成を可能にした。

 そのためGPTは、データが集まれば集まるほど、スマートになり精度も高まり、プラットフォームとしての強みを発揮する。検索や文書作成支援など幅広い分野をカバーできるだけに、次世代のAI技術活用に向けた覇権戦いが激しさを増している。検索エンジンでGoogleやBingによって席巻された日本としては、どのように対抗していくのかを考える必要がある。

 その一方で、ChatGPTに関する課題や懸念についても議論が活発だ(図2)。それぞれの論点をみてみよう。

図2:ChatGPTで議論されている課題や懸念点