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EV(電気自動車)と自動運転による自動車ビジネスの変貌【第70回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年7月24日

アメリカや中国では自動運転タクシーが稼働済み

 完全な自動運転が実現すると、さらなる変革が可能になる。自動運転のレベルは6段階に分かれている(表1)。レベル0~2は人が主体であり、レベル3以上がシステム主体になる。

表1:自動運転のレベル(国土交通省の資料を元に作成)
レベル名称運転主体内容
0自動運転なし運転者がすべての運転を行う
1運転支援システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施する
2部分運転自動化特定条件下での一部の自動運転機能を実施する
3条件付運転自動化システム限定された条件下で、システムがすべての運転操作を行う。運転者はいつでも運転に戻れる状態であることが必要
4高度運転自動化システム特定の条件下で、システムがすべての運転操作を行う。  運転者は運転席を離れることができる
5完全運転自動化システム常にシステムがすべての運転操作を実施する

 レベル4になると、システムがすべての運転操作を行い、何らかの不具合が発生してもシステムが対応する。ドライバーは運転操作から解放され、モビリティサービスや社内での過ごし方などが一変することで、新しいビジネスチャンスが生まれる。

 日本でも、2023年4月1日に改正道路交通法によってレベル4の公道走行が解禁された。同年5月には福井県永平寺町で実施する実証実験において、特定自動運行の許可が国内で初めて取得されている。

 こういった状況に対応してソニーとホンダは、新時代のモビリティやモビリティサービス、新しい車内UX(User Experience)の実現を目指して提携している。そのためのプラットフォームとして、高速ECUと車内外に45個のカメラやセンサーを搭載したプロトタイプを2023年1月の「CES2023」で発表した。

 すでに海外では、自動運転を使ったビジネスとして自動運転タクシーが稼働している。例えばアメリカでは、自動運転で先行する米Waymoが、「Waymo One」と呼ぶ自動運転タクシーサービスをフェニックスとサンフランシスコ、ロスアンジェルスで展開している。数百万マイルの公道走行と数十億マイルのシミュレーションを含む経験と学習に基づいている。

 中国でも、自動運転の開発をリードする百度(バイドゥ)が、北京、上海、広州、重慶、長沙、滄州、深圳の7都市で自動運転タクシーを展開している。タクシーは管制センターからリアルタイムで監視されているが、乗客はタッチパネルで行き先を指定すると、あとは無人で目的地まで連れていってくれる。他にも広州拠点のWeRideや深圳拠点のAutoXといった企業が自動運転サービスを提供している。

 完全自動運転を実現するテクノロジーにも、新しい方向性が出てきている。自動運転は一般に、カメラやセンサーによる画像やデータから、他の車両や歩行者、道路上の白線、標識などを認識し、安全に走行できるようにアクセルやブレーキ、ハンドルなどをAI(人工知能)技術で制御することで実現する。

 そのためにGPS(全地球測位システム)や高精度のマップデータを使うことがある。だがテスラは、自動運転のためのマップデータを使わずに、カメラ画像とAI技術によって実現するアプローチを採っている。

 一方、中国では安全性やコストの面から車単独でのレベル4の実現は難しいと判断し、「車路協同」路線を進めている。道路にカメラやレーダーを設置し、道路が車や人などを感知・収集した情報を処理して車両へ通信することで自動運転を実現する。湖南省衡陽市では、市内の道路200キロメートルを対象地域に指定し、道路にLiDARや通信装置などを設置し、自動運転タクシーや無人走行バス、無人清掃車などを稼働させている。

 ただ中国方式では、道路へのカメラなどの設置コストが発生するだけでなく、データや機器の標準化も必要になる。車単独で実現する完全自動運転が望ましいものの、自動運転車と人が運転する車が混在したり、人が歩行したりしている環境で安全性を実現するには、規制や通行の管理が必要になるかもしれない。

EV化の遅れはビジネス変革に乗り遅れることに

 このようにEV化は、自動車業界の産業やビジネスモデルとマネタイズの方法を大きく変えていく。その動きは、EV充電器やEVを使った電気エネルギー活用をはじめ、ソフトウェアビジネスや、データを使った改善や新ビジネス、完全自動運転車によるMaaS(Mobility as a Service)や物流変革へとつながっていく。

 例えば物流では、2024年から自動車運転業務における年間時間外労働の上限が960時間に制限される。「2024年問題」と呼ばれる働き方改革によって、運送・物流に大きな影響があると考えられている。ドライバーの高齢化も進んでいるだけに、完全自動運転を用いたMaaSが適用できるかどうかが大きなキーになる。

 脱炭素を目的としたエネルギー革命によって進むEV化。電気エネルギーによる変革やソフトウェアデファインド化によって生まれるビジネスモデルが、企業の競争力や価値を大きく変えようとしている。EV化の進捗に遅れるということは、EV化によって引き起こされる変革にも遅れるということだ。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。