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EV(電気自動車)と自動運転による自動車ビジネスの変貌【第70回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年7月24日

「EV×DX」で始まる自動車業界の大変革【第53回】』で、自動車のソフトウェアデファインド化を取り上げた。その後、EV(電気自動車)化はさらに進み、自動運転の活用も始まった。今回は、EVと自動運転によって変貌する自動車ビジネスの現状を見てみたい。

 EV(Electric Vehicle:電気自動車)の販売台数は2022年に、中国が前年比80%増の590万台、欧州が15%増の260万台、米国が55%増の99万台だった。中国の販売台数は、世界のEV販売台数の60%近くを、新車販売台数の4分の1を占める。一方で日本のEV販売台数は13万台と大きく遅れている。

 自動車市場におけるEVの普及率は、中国は11%、アメリカは6%である。脱炭素化を強く推し進めているヨーロッパでは、さらに広がっている。ドイツが24.7%、イギリスが20.8%、フランスは20.2%だ(ENECHANGEの資料より)。北欧では、さらに広がり、ノルウェーでは88%、スウェーデンでは51.9%にもなっている(同)。日本はPHV(Plug-in Hybrid Vehicle)を含めても3.17%に留まっている。

EV化で電源の供給網が新ビジネスに

 EV化が進むことは、動力がエンジンと化石燃料から、モーターと電池へと変革することである。自動車業界の構造や燃料の供給網を大きく変え、企業の競争力や自動車のバリューチェーンを大きく変えていく。実際、自動車部品の製造や保守といった分野で大きな変革を起こっている。

 こうした動きの中で、新ビジネスの1つになっているのが電源の供給網である。EVの航続距離は年々伸びており、米テスラの「モデルS」は1回の充電で最大600キロメートルを走行できる。だがEVの発展には、EV充電網の整備が不可欠だ。

 例えば、EV化率88%を越えるノルウェーは、厳寒時にエンジンオイルが固くなってしまうことを防ぐブロックヒーターのための給電設備をEV充電にも使っている。アメリカでは、アメリカ全土の高速道路や一般道に50万機のEV充電器を設置することで、EVやEV充電ビジネスを進めるとバイデン政権が発表した。

 テスラは自らがEV充電網を整備しており、すでに全世界に4万台の充電器を設置している。このうち米国にある1万2000台のEV急速充電器を、テスラ以外のEVメーカーへも提供する動きが始まっている。米フォードや米GM、新興EVメーカーの米リビアンは、テスラと契約を結び、テスラの急速充電器を利用できるようにすると発表している。

 つまり、テスラのEV充電器が米国における業界標準になり、EV充電網という新しいエネルギービジネスをリードすることになった。急速充電ができるEV充電網がキーになり今後は、EVとも連携する家庭用充電器を含めたエネルギービジネスの変革へとつながっていく。

車両の販売後もソフトウェアのアップグレードで儲ける

 EVによる変革はエネルギービジネスの変革に留まらない。『テスラに見る“デジタルネイティブ製品”がもたらす市場価値【第35回】』で指摘したように、自動車がソフトウェアデファインド(定義)になっていくことでソフトウェアの重要性が高まり、ソフトウェアによる価値を基準とした、ソフトウェア販売やデータに基づくビジネスモデルの変革が起きる。

 先行するのは、やはりテスラである。同社は、強力なECU(Electronic Control Unit)による中央集中型アーキテクチャーを採用し、OTA(Over The Air)と呼ぶネットワーク経由によるソフトウェアの保守やアップグレードを可能にしている。ソフトウェアによって自動車の機能を強化できるため、機能強化ソフトウェアの販売というビジネスモデルを実現し、車両の販売後も、ソフトウェアのアップグレードで儲けている。

 事実、テスラは、自動運転のレベル2を可能にするソフトウェア「FSD(Full Self Driving)」を1万5000ドルで販売している。FSDの北米でのパッケージ販売数は2022年末に累計28万5000台に達している。

 例えば、FSDの「Auto Pilot」機能では、同じ車線内でのハンドル操作や、加減速を自動的に実行する機能のほか、高速道路での車線変更や自動駐車、さらに信号や標識を識別してブレーキをかける機能などが追加されている。「Smart Summon」と呼ぶ機能では、スマートフォンから約213フィート以内にある車両に対し、選択した場所まで必要に応じて物体を避けながらの自律走行が可能である。

 さまざまなハードウェアやセンサーを搭載した車両を販売した後に、それらをフル活用するためのソフトウェアを販売することで自動車の価値を高めるビジネスモデルにより、高い利益率を実現できる。

 ソフトウェアモデルに加え、データを使ったビジネスモデルも変革している。車両や運転者、周囲の状況などのデータを、予防保守や新サービス/新機能に活用したり、保険ビジネスに活用したりだ。例えば保険では、運転時の急ブレーキや、先行車両への接近、運転時間などから算定したスコアに基づいて保険料を決めることで、既存の保険より料金を20~30%安くできるという。

 テスラが手掛ける保険ビジネスは、4半期の成長率20%を実現し、2022年の保険収入は年間3億ドルに達している。データを使って自動車に付随する新ビジネスを実現できるわけだ。