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“as a Service”による新ビジネスの立ち上げを生成AIが加速【第71回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年8月21日

アプリケーション領域のaaSが伸びる

 こうしたaaSの中で、アプリケーションの機能を提供するのがSaaSである。SaaSの世界市場は、2022年から2030年まで年平均成長率18.83%で成長し、2030年には7031億9000万米ドルに達すると予測されている(米Report Oceanの発表)。CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)ソフトウェアの80%以上、HR(Human Resource)管理ソフトウェアの70%がSaaSとして提供されている。

 SaaSのメリットは、aaSのメリットに加え、セキュリティや可用性にも優れ、常に最新の状態で、法制度の変更にも対応できるなどだ。高度なアプリケーションを使うことで生産性の向上や仕組の変革を実現できる。

 代表的なSaaSとしては、米Googleの「G-Suite」、米Microsoftの「Office 365」、米Salesforce.comの「Salesforce」のほか、「Zoom」や「Adobe」、独SAPや米OracleのERP(統合基幹業務システム)などが挙げられる。

 日本市場では、以下のような企業がSaaS売り上げの上位に挙がっている。クラウド型名刺管理サービスを提供するSansan、スケジュール共有やワークフローなど社内の情報共有を支援するサイボウズ、経費精算や販売管理、顧客対応やマーケティングを支援するラクス、法人向け会計スや個人向け資産管理のマネフォワードやFreee、会計・経理のオービックビジネスコンサルタント(OBC)などだ。

 今後の動きとしては、「バーティカル(業種別)SaaS」の広がりが予想されている。これまでのSaaSは、人事管理や顧客管理、会計など業界に特化しない「ホリゾンタル(業務別)SaaS」が多かった。バーティカルSaaSは、製造や医療・介護、不動産など、業界の特有の業務を法律にも基づいた形で支援する業界特化のSaaSだ。

 これは、新ビジネスのチャンスである。自社の持つノウハウや優れた仕組みをソフトウェア化し、それをSaaSとして展開する。自社のアプリの機能を増やし、統合化を図るスーパーアプリ化の流れとも呼応できる。『金融業界を揺さぶるFintechの今【第65回】』で取り上げた、銀行機能を提供するBaaS(Banking as a Service)が、その一例だ。提供する企業と、それを利用する企業の双方にメリットがある。自社が活動する業界での差別化点のSaaS化を検討することが新ビジネスにつながる。

“コネクテッド”で製品をaaS化

 ソフトウェアやノウハウのサービス化と同時に、製品のサービス化も進んでいる。物を“持つ”のではなく、その機能をサービスとして“使う”動きだ。インターネットやIoT(モノのインターネット)の進化により、製造して販売した機器をコネクティッド(ネットに接続された状態)にでき、機器の稼働状況や設置場所などをリアルタイムに把握できるようになったことで、aaS化が起きている。

 製品のaaS化の例に、MaaS(Mobility as a Service)やEaaS(Equipment as a Service)」がある。

 MaaSでは、タクシーの配車やカーシェアリングといったサービスをモバイルアプリやWebを通して“移動機能”として提供する。自動車を購入・所有することから移動サービスを利用することへの変換だ。今後は、自動運転タクシーや、トヨタ自動車の「e-Palette Concept」などの車両自体の変化を含めて、移動・運送機能のサービス化を加速する。e-Paletteは、自動運転技術を活用して人々の暮らしを支えるモビリティサービスを提供するための専用車両である。

 EaaSは各種機器のサービス化である。高額な製品の購入に変えて、定期的な支払いモデルで、最新テクノロジーを使った機能を利用可能にする。機器の状況を遠隔地から把握し、予兆診断に基づくメンテナンスを実施することで、機器の停止を防止し、運用コストの削減や機器の稼働時間の改善を図る。

 この方式は「Power by the Hour(PBH)」と呼ばれるサブスクリプション型モデルに基づいている。ジェット機用エンジンの提供方法として英ロールスロイス社や米GEが始めた。製造者と使用者の関係を変え、品質やサービスの向上により利益を増やせる。

 米調査会社のガートナーは、「2023年までに産業機器メーカーの20%が産業用IoTのリモート機能を付帯したEaaSをサポートする」と予測する。aaS化される機器はすでに、ジェットエンジンのほか、建設機械や印刷機、エアコンプレッサーやポンプなどに広がっている。

 EaaSの実現により、保守や状況把握だけでなく、収集したデータから新しいビジネスモデルを作り上げることが可能になる。データを自社製品の改善や改革に使うだけでなく、データによるマネタイズによって新ビジネスを立ち上げるチャンスにする。上述したGEは、ジェット機用エンジンからのデータを分析し、燃料消費が少ない最適な飛行ルートを航空会社に販売するというビジネスを実現している。

自社の仕組みやノウハウのaaS化を生成AIが加速

 aaS化による製品の提供から機能の提供への変化は、提供側には品質強化や顧客とのつながりの強化というメリットがある。同時に利用者側では機能を簡単に、より安価に使えるのがメリットだ。aaSの活用は、DXへの取り組みにおいて迅速化と効率化に役立つ。

 自社のノウハウや仕組みや製品をaaS化すれば、サービスビジネスへの参画が可能になる。さらに、利用状況などを示す実データを活用すれば全く新しいビジネスの可能性も生まれる。

 この流れに生成AIが利用できる。例えば弁護士ドットコムは、生成AIを使った法律相談チャットボットの試験提供を始めている。過去に蓄積してきた125万件以上の法律相談のやり取りのデータを基にAIシステムが相談内容に対応した文章を自動的に作成・表示する。つまり、生成AIを使うことで、自社のノウハウやデータのマネタイズが容易になる。

 他にも、建物やゲームの設計、特許の作成、金融分野では会話型金融や金融分析、総合的金融データの作成などへの活用が始まっている。米Morgan Stanleyは、AIチャットボットサービス「ChatGPT」(米OpenAI製)を使い、ナレッジリソースをチャットボットで提供しようとしている。システム全体を作らなくても、自社のデータや顧客とのやり取りを生成AIに学習させれば、サービスのベースにできる。

 今回紹介したように、自社の仕組みやノウハウ、データを使ったSaaS化、あるいは製品と保守を組み合わせたEaaS化は、さまざまな企業に新しいビジネスチャンスを生み出す。この流れは生成AIによって、これまで以上に加速されるだろう。

大和敏彦(やまと・としひこ)

ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。