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生成AIのプラットフォーム化が進展【第75回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年12月18日

プラットフォーム化に向けた動きを強めるOpenAI

 こうした生成AIに対する動きがある中で、先行するOpenAIは、GPTのサービス強化に合わせて、次のようなプラットフォーム化に向けた動きを進めている(図1)。

図1:OpenAIが進めるGPTのプラットフォーム化への動き

Microsoft製品への組み込み=Microsoft Copilot

 Microsoftは、主力製品に対し「Copilot(副操縦士)」と呼ぶAI機能の導入を進めている。GPTをプラットフォームに自社の社製品/サービスを強化し、さまざまな作業の自動化/支援により利用者の生産性を高めることで競争力を高める。各製品における生成AI機能の活用方法を以下に挙げる。

Bing :GPT機能を組み込み、GPTが学習していない最新状況の検索を可能にするとともに、回答の根拠となるWebぺージも表示する
Word :文章の作成や編集、要約、創作を支援する
Excel :データの分析と探索を支援する
PowerPoint :既存文書をノートや、参考情報を加えたプレゼン資料に変換したり、簡単な指示や概要からプレゼンテーションの新規作成を始めたりを可能にする
Teams Premium :インテリジェントな要約やチャプター分割した会議記録を作成できるようにする
Security :攻撃関連データをリアルタイムに相関分析し脅威インテリジェンスを要約することで、脅威を迅速に修復するための最適な行動を推奨する

 そのMicrosoftは、OpenAIのアルトマンCEOの解任・復帰騒動への対応でOpenAIとのつながりをさらに強めた。業績も伸びており、Intelligent Cloud部門全体の売上高は前年比19%増の242億6000万ドルである。クラウド上の生成AIツールである「Azure OpenAI Service」の顧客数は2023年7月時点の1万1000人が1万8000人に増え、Azureの売上高は前年比で29%増えた。

APIによる他のソフトウェアとの連携=プラグイン化

 「プラグイン」は、ChatGPTの機能をカスタマイズし、追加モジュールとして特定のニーズや目的に合わせられる機能で、APIで連携する。プラグインを使うことで、リアルタイムな情報の取得、計算や最新情報へのアクセス、サードパーティ製サービスの利用などが可能になり、ChatGPTの機能を高められる。

 既に多数のプラグインが発表されている。世界では、旅行計画や、法律・政治に関するデータ提供、店の検索と予約、商品検索、PDFの読み込み、ExcelやCSVの取り込みなどがある。日本では食べログが、ChatGPT上で店を探せるプラグインを発表している。

 優れたプラグインは、ChatGPTを強化し利用者ニーズに合った使い方を提供する。企業側から見れば、プラグインやデータ提供の有料化といった新しいビジネスの構築・実行チャンスが得られる。

カスタマイズGPTの展開=GPTs

 「GPTs」は、ChatGPTの特定用途向けバージョンをサードパーティーが開発できる機能である。これまでも、学習データを与えることによるカスタマイズはできたが、プログラミングやデータの整形などが必要だった。GTPsでは、カスタマイズを簡単に設定でき、ファイルのアップロードによる学習も可能である。

 GPTsの利用を促す仕組みとしてOpenAIは、「Assistants API」と「GPT Store」を発表した。Assistant APIは、GPTsを対話形式での作成を支援する。GPT Storeは、開発したGPTsを販売するためのマーケットプレイスだ。GPTをベースに開発した、それぞれに特徴のあるAIツールを市場に投入し収益を得られるようになる。

 Assistants API/GPT Storeと同時発表され「GPT-4 Turbo」では、2023年4月までのデータを使った学習によりプロムプト入力の上限を高めると共に、API利用料金を引き下げた。APIの利用やプラグインの活用を促す狙いがある。

データの重要性がますます高まっていく

 生成AIは、その性能の追及だけでなく、プラットフォーム化による活用拡大を目指す時代に入ってきた。プラグインによる他のソフトウェアとの融合やGPTsによるカスタムAIの開発により、ビジネスのあらゆる分野に導入され、業務の自動化やデータの活用が進む。プラグインはGPTの使用率を高め、GPTsはマーケットプレイスによる販売の収益分担を実現しマネタイズを進める。

 それに伴って、生成AIを学習させるためのデータの重要性が高まる。利用企業にしても、各社ノウハウや顧客とのやり取りといったデータを使ったAI化が可能になるだけに、データは、ますます重要になる。

 生成AIの活用は、企業の競争力を増すうえで重要な要検討事項になる。業務変革により、多くの人の雇用にも影響を与える。AI活用を理由にした人員削減計画を集計すれば、米企業は2023年1~8月に約4000人を削減した。米モバイルUSは全社員の7%を一時解雇したし、米Dropboxはソフトウェア開発部門で人員の16%を削減した。

 今後は、生成AIを活用できる人材の必要性が高まり、それを補うためのリスキリングも必要になる。これらの動きによりAI技術の重要性は増すばかりだ。一方で、プラットフォーム化による寡占の恐れが出てくる可能性もある。信頼性や安全性、倫理などの要件を満たし健全な活用に向けた仕組みが、企業や社会にとって必要になっていく。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。