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生成AIのプラットフォーム化が進展【第75回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年12月18日

米OpenAIが「ChatGPT」を発表してから1年が経った。チャット形式で使うだけでなく、大規模言語モデルの「GPT」をAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)経由で他のソフトウェアと連携したリ、専用にカスタマイズしたりが可能であり、AI(人工知能)活用のプラットフォーム化の道を進んでいる。ChatGPTなどの生成AI技術は、企業や組織、個人に浸透していくだろう。今回は、ChatGPT/GPTを主軸に、生成AI技術の今と、これからをみてみたい。

 生成AI(人工知能)は、自然言語により、さまざまな質問に答えてくれたり、さまざまな仕事に使えたりと、汎用化に近づいたAI技術である。その使い勝手から、急速に普及しつつある。生成AIの世界市場規模は2023年に448億ドル、2030年には2000億ドルを越えると予測されている(独Statista調べ)。

 これまでのAI技術は、目標を決め、関連データを集め、それを学習させることで、動作品質を高める必要があった。それに比べ米OpenAIが2022年11月に発表したAIチャットサービスの「ChatGPT」は、アカウントを作ればすぐに使え、かつ「ChatGPT 3.5」は無料で提供されている。AI技術を使うハードルが下がり“AIの民主化”を進行させた。

 競合の動きも盛んになってきている、米Googleは2023年3月に対話型AIシステム「Bird」を、同年12月には、より高性能のAIモデル「Gemini」を発表した。米Amazonは生成AIへの投資を増やし、バーチャルアシスタント「Alexa」に生成AI機能を組み込むと発表。米Meta(旧Facebook)や米X(旧Twitter)も、それぞれのサービスに生成AIを組み込むと発表した。日本では、NEC、東京工業大学と富士通、サイバーエージェント、ソフトバンク、NTTなどが独自の生成AIの開発や商用化を発表している。

さまざまな分野の作業を自動化していく

 活用分野も、従来の現場や特定作業だけでなく、ホワイトカラーの業務変革に使われ始めている。生成AIは今後、さまざまな分野の作業を自動化し生産性を高めていく。米コンサルティング会社のMcKinsey&Companyは、「作業時間の60~70%を自動化でき、年間600兆~900兆円の経済的価値をもたらす可能性があると予測する。

 生成AIによって取って代わられるリスクが高い職業は、事務および管理支援職(46%)、法務職(44%)、建築設計およびエンジニアリング職(37%)である(米Goldman Sachs調べ)。米Electric AIの調査では、米国では既にIT分野の問題解決の66%にChatGPTが利用されていた。

 日本でも、生成AIを積極的に活用しようとする企業が増えている。パナソニック コネクト、LINEヤフー、サイバーエージェント、セブン-イレブンなどが社内業務への積極活用を発表している。

 例えばパナソニック コネクトは、ChatGPTをベースにしたAIアシストサービス「ConnectAI」を社員向けに提供しており、その利用数は1日に5000回を越えている。その成果として、データの作成に要する時間が従来の3時間が5分に、アンケート調査の結果の集計では従来の9時間が6分になったと公表している。

 LINEヤフーは、ソフトウェア開発に生成AIを使い1日当たり2時間の効率化を目指している。サイバーエージェントは、シナリオ構成やキャラクターデザインなどゲームの開発に生成AIを使う。セブン-イレブンは、商品企画に生成AIを導入し、その企画にかかる期間を10分の1にまで短縮する。

 このように生成AIは、書類作成から企画・開発などに大きな力を発揮し、さまざまな仕事のあり方を変えていく。

汎用化により兵器開発やサイバー攻撃などへの悪用も可能に

 しかし、汎用に近づくことで悪用も可能になる。兵器開発やサイバー攻撃への利用、偽情報の流布などへの利用に対しては、十分な注意が必要だ。例えばサイバー攻撃において、米SplunkがCISO(Chief Information Security Office:最高情報セキュリティ責任者)を対象に実施した調査によれば、CISOの70%が「生成AIはサイバー攻撃者に優位性を与えてしまうのではないか」と考えている。

 悪用の可能性の上位には、攻撃のスピードと効率の向上(36%)、フェイク音声や画像を使ったソーシャルエンジニアリング攻撃(36%)、サプライチェーン攻撃の対象範囲の拡大(31%)が挙がる(同)。

 もちろん、サイバーセキュリティ対策にも生成AIは有効に機能する。CISOの86%が「生成AIはセキュリティチームのスキル不足や人材不足を補うために役立つ」と期待している。

 悪用を避けるための規制に対する議論も進みつつある。米バイデン大統領が署名した「AI大統領令」では、米国の安全保障や国民の健康を脅かすリスクに関するテストに厳格な基準を設け、事前に外部機関の評価を受けることや、AIが生成しコンテンツであることを示す認証の仕組みの策定を検討する。

 G7(先進7カ国首脳会議)の関係閣僚を中心に「広島AIプロセス」も創設された。生成AIの活用や開発、規制に関する国際的なルール作りを推進する枠組みだ。悪用の脅威や生成AI自身の信頼性・安全に対する規制は、政府だけでなく生成AIを開発する企業も基準を設け、それを守る必要がある。