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サイバー攻撃が狙うIoT機器の現状と、その活用が引き起こす変革【第79回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年4月22日

IoTによるイノベーションを起こす3つのアプローチ

 IoTを活用してイノベーションを実現するには何が必要であろうか。それには3つのアプローチが必要である(図2)。

図2:IoTによる変革に向けた3つのアプローチ

アプローチ1:IoTによる変革への活用検討

 世界ではIoTによる変革が進んでいる。IoTを活用した変革の検討が必要である。例えば製造業では、工場全体の最適化や自動化へのIoTの活用が進む。変革例として、IoTを活用した製造変革プロジェクトである「ドイツIndustory4.0」と「中国製造2025」に見てみたい。

 独シーメンスは、IIoT(Industrial IoT)を「IT(Information Technology:情報技術)とOT(Operational Technology:運用技術)の融合の火付け役」と考えている。つまり、ITと産業機器を監視・制御するOTをIoTによって融合を図る。

 具体的には、施設の産業機械やロボット、エアコンや照明などをIoTで接続し、稼働状況や施設内の現況を把握し、生産性向上や安全確保、新たな製造に適用する。そのために、製品や機械、プロセスや製造施設を含めたデジタルツインを構築し、分野横断的に生成されたデータを統合し、企業の内外での全体最適化に活用できるようにする。

 Industry4.0ではさらに、これらのデータを企業の改革に使うと同時に、工場内だけではなく物流テクノロジーと統合することで、製造と物流の新しい仕組みの構築を目指す。デジタルによって透明性を実現し、人間と機械、関連する企業が保有する資産をデータ化し、どの製品が、いつ、どこで製造されたか、そして、どこに納品されるのかといった情報を把握し、全体最適化を可能にする変革を引き起こす。

 一方、中国北部にある天津港は、COVID-19によるサプライチェーンの混乱や労働力不足に陥った。この問題を解決するため、AI、5G、IoTによって自律走行車やロボットの動きを可視化し、そのデータを基にモデル化するデジタルツインを構築した。そのデジタルツインを使いドック作業の全てを完全自動化することを目指している。すでに、通信、AI、自律走行の各技術を持つ企業と協力し、モバイルネットワークを使った港湾内のロボットと道路上の車両を誘導する仕組みを作っている。

 このようにIoTを手足として使い、仕組みやプロセスを変革する動きは、スマートシティやスマートグリッド、交通・運輸、スマートホームなど各所に見られる。モデル化や統合化を目指したIoTの活用によって変革を目指すべきである。

アプローチ2:新ビジネスの創出や売り上げ拡大を目的としたデータ活用

 データの収集・蓄積に取り組んでいる企業は多い。だが、ビジネスモデルへの転換による付加価値の拡大を実現している企業は少ない。データの活用も部分的な効率化や自動化のためにとどまり、全体最適化に使っているところは少ない。

 こうした状態から抜け出すには、縦割りでの検討を越えた全体最適や全体の変革を目標に必要なデータを検討し、その収集方法を探る必要がある。それによって収集するデータの種類も変わる。全体の理想形を考えてモデル化し、それをチューニングし、最適なモデルを作る。そのために必要なデータを検討し、それを収集できるIoTを調査する。

 また、デジタルツインによるモデル化を広げるには、IoTだけでなく、データの蓄積・活用・処理などを含めたシステム全体の検討やセキュリティ対策が必要である。

アプローチ3:新ビジネスの創出検討

 新ビジネスの実現には、製品の変革が必要なことも多い。IoTの可能性を基に、これまでのプロセスやビジネスを見直すことによって、新製品や新サービス、ビジネスモデルを検討する必要がある。

 新ビジネスの例にモバイルネットワークの活用がある。モバイルネットワークによって、どこからでもネットワークへ接続できれば、製品の管理やアップデート、アセットのリアルタイムな監視・管理が実現でき、サブスクリプションベースでの事業展開が可能になる。『EV(電気自動車)と自動運転による自動車ビジネスの変貌【第70回】』で触れたように、米テスラの「On The Air」は、ネットワーク経由でソフトウェアを更新することで、自動車の世界にソフトウェアビジネスを持ち込んだ。電動スクーターや自転車などの貸し出しサービスも同様だ。

より高い視点からのビジョンを持ってモデル化に取り組む

 このようにIoT接続によって、製品に検索や生成AIのサービスを提供したり、それらと組み合わせたサービスを提供したりが可能になる。そうしたIoTの特徴を生かし、どのようなビジネスが実現できるかを検討する必要がある。

 今後、さまざまなモノがIoT接続されることで、社会の可視化や自動化が進み、データが収集される。そのデータはAIの機械学習にも活用される。これらを安全に活用して社会を変えるためには、より高い視点からのビジョンが必要であり、それに基づいたモデル化とシステム構築、そしてセキュリティ対策が重要になる。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。