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生成AI需要がデータセンターへの投資を加速し新形態を求める【第80回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年5月20日

データセンターにおける低電力・脱炭素対策が進む

 このように増大が続くデータセンター業界ではあるが、今後は、どうなっていくのであろうか。今後の動向に影響を与える要因を図1に挙げる。

図1:データセンターの“今後”に影響を与える要因

要因1:電力の確保

 生成AIの進化と、それによるサービスの増加によって、データ流通や処理量が急増し、データセンターの電力消費量も拡大する。国際エネルギー機関(IEA)の試算では、世界のデータセンターの電力消費量は2026年に、2022年比で2.2倍の1000テラ(テラは1兆)ワット時に拡大すると発表している。日本の年間総電力消費量に相当する規模の電力が新たに必要になるわけで、安定した電力を賄う施策が必要になる。

要因2:脱炭素対策

 地球の温暖化防止のための脱炭素対策は不可欠になる。AWSやMicrosoft、Googleなどが持つハイパースケールデータセンターでは、脱炭素対策に早くから取り組んできた。

 AWSは、2040年までにCO2排出量をゼロにするとコミットしており、2022年時点で使用電力の90%を再生可能エネルギーで賄っている。Microsoftは、2025年までに必要なエネルギーの100%に相当する電力購入契約を締結するとコミットし、購入を進めている。Googleは、2030年までに地域を問わず24時間365日、カーボンフリーのエネルギーで事業を運営するという目標を掲げ、2017年以来、年間消費電力の100%に相当する太陽光エネルギーと風力エネルギーを購入してきた。

 脱炭素の実現に向けては、データセンターの低消費電力化も必要だ。そのためには、低消費電力で効率的な処理、効率的な冷却ができる建物や施設、大気を利用した空冷などを備えたデータセンターが必要になる。廃熱を資産に近隣に提供するようなエネルギーソリューションも求められる。

ドイツのエネルギー効率化法は、データセンターの電力使用効率を計るPUE(電力使用効率)の目標達成を求めており、施設からの廃熱の再利用枠が定められる方向だ。電力対応や省エネ施設の面からも最新の自社データセンターはメリットがある。

要因3:ソブリンクラウド(Sovereign cloud)

 「ソブリンクラウド」は、クラウドサービスに関して、セキュリティやコンプライアンス、データ主権において各国の法律に準じていることを保証するクラウドを指す。GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)が、データの保護を規制しているように、クラウドに関しても、データ主権やデータ保護、プライバシー要件、競争の保護の議論が進んでいる。クラウド事業者がソブリンクラウドソリューションを発表し始めている。

要因4:エッジコンピューティング

 IoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器が増大すると、ネットワークの負荷を軽減するために、IoTで収集されるデータの全てをクラウドに集めるのではなく、データの発生場所に近いエッジクラウドで処理する必要が出てくる。一部の機器だけに適用するアプリケーションや、発生場所でしか必要のないデータをエッジで処理し、エッジで処理したデータをクラウドに送ることでネットワーク負荷を減らす。

 高速なリアルタイム制御や指示のためには、ネットワークの遅延であるレイテンシーや遅延のバラツキを最小にする必要がある。そのためにもエッジ処理が必要になる。エッジサーバーは機器に組み込まれることもあるが、エッジクラウドで処理する可能性がある。

要因5:分散化

 「Web3.0」と呼ばれる分散化の動きも広がっていく。Web3.0の基盤であるブロックチェーン技術は、現在のようにメガクラウド企業が中央集権的に管理する形態とは異なる分散型での管理を可能にする。Microsoftが、スマホで稼働する生成AI「Phi-3」を発表したようにAIの分散化も進む。このような分散化に伴い、分散クラウドも広がっていく。

 分散クラウドを分散データセンターで稼働させるケースが増えてくれば、分散したデータや分散したクラウド環境を統合管理できる仕組みやセキュリティが必要になる。

新しいスタイルでの情報処理を目的に応じて選べる時代に

 このようにデータセンターやコンピューター機器は、省エネ化や脱炭素化が進み、ハイパースケールデータセンターや分散データセンターも増えてくる。省電力対策や脱炭素対策は不可欠であり、そうしたクラウドのためのネットワークインフラも必要になる。

 利用者としては、データセンターの分散や分散クラウドによって、オンプレミスでもエッジでも、新しいスタイルでの情報処理が可能になり、その結果として、いつでも・どこでもサービスが使えるようになる。これらを利用目的に応じて選択することが重要になる。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。