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生成AI需要がデータセンターへの投資を加速し新形態を求める【第80回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年5月20日

日本へのデータセンターの設置や増強の動きが加速している。成長を加速している要因は、生成AI(人工知能)とクラウドサービスである。今回は、データセンターの増強を取り巻く環境や今後の姿を考えてみたい。

 データセンターは、サーバーやネットワーク機器を設置するための建物である。各種サービスを提供するためのサーバーを収納するラックや、ネットワーク機器の設置スペース、それらの設置に必要なインターネットなどと外部接続するための高速回線、運用に必要な冷却装置、サーバーなどに電力を供給する大容量電源などを備える。

 そのデータセンターを対象に日本への投資が増大している。米AWS(Amazon Web Service)は2027年までに東京と大阪のクラウドインフラに2兆2600億円を、米Microsoftは生成AI(人工知能)の国内需要の増大に対応するためデータセンターの増強や研究拠点の設立に29億ドル(約4400億円)を、それぞれ投資すると発表した。米Googleはデータセンターなどのインフラ設備に7億3000万ドルを投資し、千葉県印西市に2023年3月に開設したデータセンターに加え、広島にもデータセンターを開設する予定だ。

生成AIのために大規模電力を供給できるデータセンター必要に

 日本への投資を加速させている最大の要因は、生成AI(人工知能)需要の高まりである。世界の生成AI市場は2023年に438億7000ドル、2032年までに9676億5000万ドルにまで成長するとされている(米Fortune Business Insights調べ)。

 生成AIは、テキストや音声、画像、プログラミングコード、ビデオの解釈や新しいコンテンツを作成できる技術である。米スタンフォード大学のAI研究機関「HAI(Human-centered AI Institute)」は、「読解力や画像分類などの作業においては人間を越えた」と発表している。

 今後、生成AIは、さらなる成長を遂げ、より多くのデータで訓練され、強力なツールの登場や活用の可能性を広げる。通常業務から、デザインや創造性の高い分野へと広がっていき、その使用が増えれば増えるほどデータセンターの需要を押し上げる。

 生成AIの学習には、巨大なCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)やGPU(Graphic Computing Unit:画像処理装置)のコンピューターパワーを必要とする。GPUは、既存のCPUに比べ電源消費量が大きい。GPUのリーダー企業である米NVIDIAの「DGXH100サーバー」はGPUを8基、CPUコアを56基持ち、その消費電力は10.2キロワットに達する。

 一般のデータセンターの電力消費量は1ラック当たり2キロワット~8キロワットだとされ、既存の1ラックの標準電源容量では、1台のDGXH100サーバーも稼働できない。さらに生成AIの学習には、これらのGPUとCPUを低遅延・広帯域のネットワークで相互接続したスーパーコンピューターを必要とする。

 例えば、米Microsoftが当初、米OpenAIに提供したスーパーコンピューターは、CPUコアを28万5000基、GPUを1万基搭載し、その稼働には膨大な電力を必要とする。発生する熱に対する冷却対策のための電力も必要だ。これを実現するためには新たなデータセンターかデータセンターの増強が必要になる。

 AIやGPUの需要に向けて米国では、CyrusOneやLambda、CoreWaeveといったデータセンター業者も生まれている。生成AIの開発や活用の広がりにより大電力消費に対応したデータセンター需要が増大しているわけだ。

クラウドの利用がクラウドの進化を加速し、その進化がさらなる利用を生む

 もう1つの拡大要因がクラウドサービスの進展だ。生成AIのためのサーバー資源の運用や、それらに対するアクセスを提供するためにもクラウドが必要である。生成AI用のサーバーだけでなく、AI学習のためのストレージ環境としてもクラウドが必要になる。

 『デジタル戦略を支えるプラットフォームになるクラウド【第57回】』で述べたように、製造や流通などの変革、製品やサービスのデジタル化、CX(Customer eXperience:顧客体験)の変革、さまざまな消費者向けサービス、ヘルスケアなど、幅広い分野でクラウドの活用が増えている。

 クラウドを中心にビジネスを考えるクラウドネイティブな組織への変革も続く。日本政府もクラウドを「企業や国を支えるインフラとしての重要性の高い特定重要物資」に指定している。

 クラウドは、デジタル社会や企業を支えるプラットフォームとして重要性が増し市場の成長が続いている。IaaS(Infrastructure as a Service)とPaaS(Platform as a Service)、hosted Private Cloudを合わせたクラウド市場は、20%という高い成長率を維持し、2023年第4四半期に前年比120億ドル増の737億ドルになった(米Synergy Research Group調べ)。

 クラウドプロバイダーのトップ3は、AWS、Microsoft、Googleである。AWSの売り上げは前年比14%増ながらシェアは31%に低下した(独Statista調べ)。Microsoftが24%、Googleは11%である(同)。MicrosoftはOpenAIと協業した「ChatGPT」や生成AIを応用した「Copilot」などの投入によりシェアを拡大した。

 クラウドは進化を続けている。その1つがインフラ構築の自動化で、運用負荷を軽減し新しいサービスを迅速かつ正確に稼働できるようにする。具体的には、リソースの割り当てや設定、スケジューリング、バックアップ、セキュリティ設定、ネットワークなどの自動化だ。クラウドの進化は、さらなるクラウド活用を加速し、クラウド活用の拡大がデータセンター増設へとつながる。